ちいさなお客さま(1)


その場に居合わせた四人の男は、皆目の前の光景に言葉を失っていた。
「おかえりなさい」と玄関まで迎えに来てくれた彼女の目が、先程から何か言って欲しいと訴えている。だが、それに答えるどころか、僕は未だにこの状況を飲み込めずにいた。なぜなら、最も混乱しているのは他ならぬ僕だからだ。

僕らの視線は、小娘ではなく、彼女が繋いでいる小さな手の主に向いていた。夜空色の髪と瞳に、子どもらしくないやや大人びた顔つき。
その容貌は、まさに子どものころの僕と瓜二つだった。

「…っおい、武市!!」

口火を切ったのは高杉さんだった。
今にも殴りかかりそうな勢いで胸倉を掴まれたことで、漸く僕は我に返った。

「お前…小娘がいながら、か、か、隠し子がいたのか!」
「何を馬鹿な…!僕に子などいない!!」
「んなこと言ったって、どっからどう見てもお前にそっくりだろうが!」

高杉さんの言い分は尤もだが、本当に心当たりがなかった。確かに、京に来て間もない頃、僕にも馴染みの遊女がいた。だが、その後彼女は水揚げされ、今では所帯を持ったと風の噂で聞いている。
それが、小娘に出会う少し前のことだ。
背格好から察するに、あの子は三、四歳といったところだろう。ならば、やはり年齢が合わない。

「ね、小娘」

だが、寸前まで出掛かっていた反論は、その一言で止まってしまった。
未だ棒立ちになっている以蔵と中岡を見ると、案の定、ふたりとも驚きで顔が引きつっている。

どうやら、声まで幼いころの僕に似ているらしい。

「ぼく、おなかすいた」
「あっ…ごめんね。お昼にしようね」

早く早くと引っ張られ、小娘が慌てた様子で僕らを振り返る。

「この子のことは、お昼が済んだら話します。ご飯が冷めちゃいますから、早く来てくださいね」

その場に取り残された僕らは、暫し沈黙したのち、互いに顔を見合わせた。

「とりあえず…。早く昼餉を済ませた方が良さそうッスね」
「ああ…。そうだな」
「俺は全然食欲がないぞ……って、あ!!」

突然、大きな声を上げたかと思うと、高杉さんは一目散に廊下を走り始めた。

「あいつ、俺の嫁を呼び捨てにしてやがった!許せん!許せんぞ!!」

走り際の叫び声が、波乱に満ちた昼餉の始まりを予感させた。

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