白雪姫はだれのもの?(1)


無垢で可愛い彼女は、時に驚くほど大胆だ。

「…ん……」

僅かに開いた紅い唇から悩ましげな吐息が漏れ、幾度となく首筋を撫でる。
小娘にしてみれば、紛れもなく無意識の行為なのだろうが、どうにも調子が狂う。確かに添い寝を請うたのは僕の方だが、こうも無防備な姿を見せられてはー。

(…君は本当に、隙だらけだね)

何の事は無い、ただの寝息だと言い聞かせたところで、僕とてひとりの男なのだ。愛しい女子が息も触れるほど近くに眠っているとあれば、身体が反応してしまうのは致し方ない。


『…えっと……な、なにかお話ししましょうか』

半ば強引に布団へと引き摺り込んだ小娘の声は、今にも消え入りそうなほどか細かった。乱れた髪からは真っ赤に染まった耳朶が覗き、顔を見れずとも、今彼女がひどく緊張していることがよく分かる。

『そうだな、何か話してくれないか』
『は、はい……えーと…でも私なんかの話で良いんでしょうか?』
『ああ、君の話が聞きたいんだ。但し』
『?』
『龍馬と以蔵と中岡と高杉さんと桂さんと大久保さんが出てくる話は駄目だ』
『ええっ!?』

「どうして」と言わんばかりに僕を見上げるその顔からすると、彼女は本当に僕の気持ちに気付いていないのだろう。小娘が鈍いのは百も承知だが、自分がいかに罪作りなことをしているのか、自覚が全くないのもこちらとしては困り者だ。

『それ以外なら、君の話したいことを話してくれればいい』
『………。それじゃ、白雪姫のお話をしても良いですか』
『しらゆきひめ?』
『はい。雪のように白くて美しいお姫さま…で白雪姫です。私が小さい頃、寝る前にお母さんがよく読み聞かせてくれたんです。西洋の童話…と言うか物語なんですけど…』
『そうか。それなら、僕も聞いてみたいな』

ほっとした表情を見せた彼女は、「はい」と嬉しそうな声で答えた。

正直、小娘の口から飛び出て来る言葉は、そのどれも僕にとっては不可解なものばかりで、想像に頼るところが多かった。だが、それを懸命に伝えようとする彼女が可愛く、恐らく女子向けの物語なのだろうが、頬は自然と緩んでいた。

『白雪姫は王子さまの口付けで目が覚めた、という訳か』
『はい。大好きな人のキスのおかげで、白雪姫は生き返ったんです』
『だが、もしそれが別の男だったら、やはり目は覚めなかったのかな』
『……』
『小娘さん?』
『………』

耳を澄ませば、すぅすぅと小さな寝息が聞こえる。幼い頃を思い出したのだろうか、その寝顔はとても幸せそうに見える。

『これでは、どちらが添い寝して貰ったのか分からないな』


どれくらいの時が経っただろう。
彼女を自室まで運ぶべきか、それとも僕が出て行くべきか。悩んだ挙句、僕は今もこの温もりを手放せずにいる。

「白雪姫は王子さまの口付けで生き返った…か」

白い肌に影を作る長い睫毛、そして薄桃色に染まった頬。無論、目の前の彼女は確かに息があるけれども、まるで白雪姫のようだと思う。考えてみると、白雪姫が共に暮らしていたという七人のどわーふは、この屋根の下で暮らす僕ら四人と長州の二人、薩摩のあの人を入れれば数も丁度だ。

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