clap(7月7日〜9月28日)


焼き付けるような太陽の眩しさに目を細めると、一筋の雫が首許を伝う。
どっちにしよう―。
時が経つのも忘れてそれを眺めていると、視線の先の二軒ののぼりがそよ風に揺れた。

「おや、君は」

すぐ横の人の気配にどきっとし、私は声がした方に顔を向ける。その先には、嬉しそうな笑みを浮かべた沖田さんが立っていた。

「あ、沖田さん」
「やっぱり。奇遇ですね。君も買い物に来たのかな?」

提げていた包みを胸の前に掲げ、沖田さんは口許の笑みを深める。包みに書かれているぐにゃぐにゃな文字は、私がさっきまで見ていたのぼりと同じ形をしていた。

「はい。どっちを買おうか迷ってたところなんです」
「ああ、分かります。ここの葛切りもあそこの水羊羹も絶品ですからね。僕も副長が煩くなければ両方買っていきたいところなんですけど」

不機嫌そうに溜息を溢す沖田さんに、私は思わずくすりと笑ってしまう。
彼が皆の敵でさえなければ、きっともっと打ち解けられるのに―。
街中で一際目立つ浅黄色の羽織を見て、私の胸には複雑な気持ちが広がった。

「沖田さんは本当に甘いものがお好きなんですね」
「ええ。僕はお菓子を食べてる時が一番幸せです。それで君はどうするんですか?そろそろ決めないと、どちらも買えなくなりそうですよ」
「そう…ですね」

正面に顔を移すと、どちらのお店も更にお客さんで溢れている。限定物のお菓子が評判のこのお店に長い行列が出来るのは、最早珍しい光景ではなかった。

(あの人はどっちが好きかな…?)

すっかり私の日課となった、武市さんへのお茶とお菓子の差し入れ。
空き時間を使ってそのお菓子を買いに来たのは良かったけれど、いざ見たら両方おいしそうで、私はなかなか決められずにいた。

「本当は、こんな暑い日はアイスでも食べたいんですけど…」
「あいす?」
「冷たくて甘いお菓子なんです。いろんな種類があってすごくおいしいんですよ!」

夏になると毎日のように食べていたあのお菓子。口の中で蕩ける舌触りは、水菓子とはまた違ったおいしさだった。

「でも、この辺りには売ってないみたいです。見たこともないですし…」

ちょっと考え込んだ様子の沖田さんにそう告げ、私は苦笑いを浮かべた。けれど、そんな私とは反対に、顔を上げた沖田さんの表情はどこか楽しそうだった。

「売っていないのなら作れば良いじゃないですか」
「えっそんなの無理ですよ!第一私、作り方もよく知らないですし…」
「なら、作り方が分かれば良いんですね」

その言葉にきょとんとする私の手を引き、沖田さんはお店とは反対側に歩き始めた。

「あの、沖田さん?」
「少しだけ僕に付き合って貰えますか?君に会わせたい人がいるんです」
「は、はぁ…。どこに行くんですか」
「それは着いてからのお楽しみです」

人差し指を唇に当て、沖田さんはいたずらっぽい笑みを滲ませる。そんな彼に首を傾げながら、私は言われるままにその後をついていった。

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