彼女の秘め事(1)


最近、小娘は目まぐるしく働いている。
どうやら、僕たちの世話に加えて、他の宿泊部屋の掃除や食事の手伝いも買って出ているようだ。
元々彼女は働き者だが、あれでは体調を崩すのではないかと心配で堪らない。

「小娘。少しは休んだらどうだい?」

僕は小娘の好きな団子を持って、彼女の部屋を訪ねた。
だが、彼女から返事はない。
勝手に部屋に入るのは後ろめたかったが、様子が気になり、そのまま襖を開ける。

見ると、彼女は文机に伏していた。近くに寄ると、規則正しい寝息が聞こえてくる。

「…疲れて眠ってしまったのか」

僕は部屋から羽織を持ってきて掛けてやる。

あどけない寝顔を見ていると、思わず頬が緩む。
その時、彼女が目を覚ました。

「ん…武市さん…?」
「疲れているんだろう?もう少ししたら夕餉だから、それまで休んでいなさい」
「え!もうそんな時間ですか!私、お手伝いしなきゃ!」

小娘が眠そうな目を擦りながら立つと、肩に掛けた羽織が落ちる。

「あ…この羽織、武市さんの…?」
「ああ、君と団子でも食べようと思って来たんだが、気持ち良さそうに寝ていたから、起こすのは可哀想でね」
「ごめんなさい…。せっかく持ってきて下さったのに…」
「いや、良いんだ。また今度食べよう。それよりも、あまり無理しないように」

小娘は、ありがとうございますと笑顔で答えて、部屋を後にした。


その夜、夕餉になっても小娘は姿を見せなかった。

膳を運んできた女将に龍馬が口火を切る。

「女将、小娘さんはどうしたんじゃ?」
「それが、他のお人さんのお部屋に御膳を運ぶのをお願いしたら、小娘ちゃん、すっかり気に入られてしもたみたいで…」
「!」

気に入られた…とは一体彼女は何をされているのだろうか。
心の中に黒い感情が渦巻いていく。

「…それはどこの部屋ですか?」

僕が女将に鋭い視線を向けながら立ち上がると、中岡が立ちはだかった。

「武市さん、堪えて下さいっス」
「そこをどけ」

自分でも驚くほど低い声が出る。

「俺達は、表立って往来を歩けない身です。手配書まで出回っている今、他の客に顔を見られるのは危険です」

そんなことはわかっている。
だが、小娘のことになると、頭で考えるより先に体が動いてしまう。

「中岡の言うこともわかるが…。小娘さんが心配じゃのう。女将、悪いが小娘さんに変な虫がつかないよう頼んだぜよ」
「よろしゅおす。武市はんも、うちに任せてぇなおくれやす」
「…ああ」

食事をとり終えて、部屋で書を認める。
だが、小娘のことを考えると、一向に筆は進まなかった。

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