両想い(2)
待ちに待った日曜日。
遊園地のパンフレットを広げた私は愕然としていた。
「どうしたの?」
不思議そうな顔でカナちゃんがパンフレットを覗き込む。
そこに載っているのは、絶叫系の乗り物ばかりだった。
「…小娘ちゃん、絶叫系ダメだったっけ?」
カナちゃんに返事をしようとしたその時、高杉さんがある乗り物を指差した。
「手始めにこれに乗るぞ!」
恐る恐る顔を上げると、そこにあったのは直線部分がほとんどないジェットコースターだった。
レーンを目で追っていくだけで背筋が寒くなったけど、半ば強引に高杉さんに連れられ、結局乗ることになってしまった。
(ああ…どうしよう…)
列が進む度に、私の動悸は速くなっていく。
待っている間も、乗っている人のけたたましい叫び声が聞こえて、それが一層私の恐怖心を煽る。
「名無しさん、」
「は、はい!」
声がした方に視線を向けると、武市さんが心配そうな顔つきで私を見ていた。
「顔色が悪いけど…大丈夫?」
「あ、す、すみません!だ、大丈夫です…」
私が何とか言葉を絞り出すと、彼は優しい眼差しを向けてくれる。
(私服姿の武市さんもかっこいいなぁ…)
そんなことをぼんやり思っていたら、ついに私達の順番が回ってきてしまった。
「小娘、先頭に乗るぞ!」
「絶対無理ですっ!私は後ろに乗ります!」
私はさっと後部座席に乗り込み、安全バーを下ろした。
「僕も後ろにしよう」
そう言って武市さんが私の隣に座り、どきりとする。
だけど、そんなことも束の間、ジェットコースターは頂上に向かって動き出した。
(ど、どこまで上るんだろう…)
ちらっと下を見ると、驚くほど人の姿が小さくて目眩を起こしそうになった。
だけど、まだ落ちる気配はなくて、私の心臓は破裂しそうな位どきどきしている。
「…怖い?」
隣の武市さんに私は涙声で答えた。
「は、はい…」
「…手、繋いであげようか」
安全バーをしっかり握っていた私は、そこから手を離すのがものすごく怖かった。
だけど…。
「はい…。お願いします…」
私が武市さんに手を差し出すと、彼はぎゅっと握り返してくれる。
…だけど、それに喜んでいられたのはほんの一瞬だった。
「武市さん、もう大丈夫です」
あの後、ふらふらになってしまった私は、武市さんとベンチで休んでいた。
「高杉さんの相手はあたしがするから、頑張ってね!」カナちゃんはそう言い残して、高杉さんと違うアトラクションに乗りに行ってしまった。
(な、何か話さなきゃ…)
そう思っても、緊張しているせいで頭はなかなか働いてくれない。
その時、手に温かいものが触れて、胸が高鳴った。
「僕達も何か乗りに行こうか」
隣を見ると、笑みを湛えながら私の手を握る武市さんがいた。
恥ずかしさよりも嬉しい気持ちの方が大きくて、つい私の顔は綻びてしまう。
「はいっ!」
私達は手を繋いで、そのまま歩き出した。
楽しい時間は瞬く間に過ぎていく。
時計を見ると、閉園まで一時間を切っていた。
「こんなにびしょびしょになっちゃいました」
隣を見ると、笑いを堪えながら私を見る武市さんがいた。
「武市さんっひどいです!」
「ははっまさか君の席だけあんなに水しぶきがかかるとはね」
同じアトラクションに乗ったのに、派手に水を被ったのは私だけだった。
彼に笑われるのがちょっと悔しくて、私はわざと膨れっ面をした。
「この間の夜と言い…小娘さんは濡れてばかりだね」
(あ…)
彼の言葉に、さっきまでのもやもやした気持ちは一気に吹き飛んでしまった。
自分の発言に気付いたらしい彼の顔は、少し赤く染まって見えた。
「ご、ごめん」
「いえ…」
どちらからともなく無言になる。
その時、私の頭にカナちゃんの言葉が響いた。
「―このままじゃ誰かに取られちゃうよ。それでも良いの?」意を決した私は、自分から武市さんの手を取った。
「あの…武市さん…」
「…ん、何?」
「最後に、私とあれに乗って貰えませんか…?」
私が指差したのは、きらびやかなイルミネーションで彩られた大観覧車だった。