clap(9/30〜11/3)


嫌な汗が背を伝って目を覚ます。
心臓の音が耳障りなほど響いており、全身が気怠い。

「…夢を見ていたのか」

もう何度、この夢に苛まれていることだろう。
いや、夢だったらどんなに良かったかと思う。
この夢は、紛れもなく現実に起こったことなのだ。

僕の仲間が、同じ土佐の人間によって消されていく。
僕はその光景を止めることが出来ない。
そして、自分の無力さを思い知らされ、目が覚める。


ふと隣に手を伸ばす。だが、そこには何も無い。

…ああ、そうか。
今宵君はいないのか。

見慣れぬ天井が視界に入り、ここが長州藩邸だったことを思い出す。
予想以上に会合が長引き、高杉さんの好意で一晩泊まることになったのだ。

彼女がいないだけで、僕の心は不安で押し潰れそうになる。
以前は、毎夜のように見ていたこの夢も、彼女が傍にいてくれるようになってからは、不思議と見なくなった。

「…君がいないと眠れないよ」

僕はぽつりと呟く。
君は、僕がこんな想いでいるなんて、考えもしないんだろうね。
今頃は、さぞや穏やかな顔で眠っているのだろう。そんな彼女を想像するだけで、自然と気持ちが落ち着いてくる。
僕は彼女の姿を頭に思い描きながら、瞳を閉じた。


翌朝、僕は高杉さんと桂さんに断り、早々に寺田屋に戻った。
すると、まだ眠っていると思っていた彼女が笑顔で出迎えてくれる。

「武市さん、お帰りなさい」
「ただいま。今日は早いね」
「はい」

よく見ると、彼女の顔色はあまり良くない。目も少し赤いようだ。

「具合悪いのか?」

僕は彼女の頬に手を添える。
すると、僕の手に自分の手を重ねた彼女は頭を振る。

「いえ、違うんです。ちょっと寝不足で…」
「何かあったのか?」
「いえ…あの…」

途端に彼女が口籠る。僕が瞳で続きを促すと、くぐもり声が聞こえる。


「…武市さんが傍にいなかったから…あまり眠れなかったんです…」


彼女の言葉が耳に届く。気が付けば、彼女を思い切り抱き締めていた。

「た、武市さん!?誰か来ちゃいますっ…」

僕と同じ想いでいてくれたことがこの上なく嬉しくて。
彼女が愛おしくて堪らなくなり、横抱きにする。

「きゃっ!武市さん、下ろしてください!一体どうしたんですかっ?」
「まだ…朝餉まで時間あるよね」
「…?そうですね」

突然の質問にきょとんとする彼女。

「傍にいてあげるから、ゆっくり休むと良い」
「あのっでもっ」

僕は彼女の制止を振り切り、廊下を進む。
すると、抵抗を諦めた彼女がそっと囁いた。

「武市さん」
「ん?」
「武市さんも…一緒に休みましょ?」


僕は、一生君に頭が上がらないんだろうな。

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