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その神秘的な美しさに、思わず僕は息を呑んだ。
夜空を仰ぎ見る彼女を、黄金色の月が照らしている。
その立ち姿は濃艶な雰囲気を放っていて、普段の彼女とは別人のようだった。
「…武市さん?」
どのくらいの間、見惚れていたことだろう。
ふと気付けば、彼女が首を傾げながら僕を見上げていた。
そのあどけない表情は、僕がよく知っている彼女だった。
「…何をしているんだい?」
庭に下り、彼女に歩み寄る。
近くで見ると、彼女の顔や手はいつもより白くなっていた。
「流れ星が見たくて…」
「流星を…?」
僕が首を捻ると、彼女が笑みを浮かべた。
「はい。お願い事をしようと思って」
「…流星に願い事をするのか?」
「あれ?武市さんはご存知ないですか?」
彼女は驚いた顔で僕を見上げる。
その顔は先程よりも青白く見え、そっと触れた彼女の手は氷のように冷たかった。
「…おいで。僕の部屋からも空はよく見える」
僕は彼女の手を引き、自室に招き入れた。
「あ、あのっ…武市さん…っ」
後ろから彼女を抱え込むと、その華奢な体躯はすっぽりと収まった。
抵抗を続ける彼女に、僕はわざと不満そうな口調で言った。
「…嫌?」
「そ、そういう訳じゃ…」
そう答える彼女の身体から、力が抜けていく。
「こんなに身体が冷えるまで外にいた君が悪いんだよ」
「だって…」
下を向きながら、僕の着物の袖口を弄る彼女。
子どものような仕草に僕は頬を緩めた。
「ほら。流星を見逃しても良いのかい?」
「あっそうでした!」
彼女は即座に顔を上げ、空に目を向けた。
「君の世界では、流星に願い事をするのか?」
「はい。流れ星にお願い事を3回唱えると叶うって言われてるんです。武市さんも一緒にお願いしませんか?」
僕の願い…か。
かつて抱いていた願いは、志半ばで絶念せざるを得なかった。
以後、死を覚悟していた僕は龍馬によって命を救われ、今日まで共に新しい世を作るために奔走してきた。
それが実現しようとしている今、僕が願うことは…。
「あの…武市さん?」
思考を止めると、彼女が不安そうな顔つきで僕を見つめていた。
…そうだ。僕にもまだ願い事があった。
「僕の願いは…流星よりも君に言った方が早いな」
「え?私にですか?」
僕は不思議そうにしている彼女を更に強く抱き締め、ゆっくり耳元で囁いた。
すると、彼女の顔が見る見るうちに赤く染まっていく。
「…それじゃ、私のお願いと同じです…」
どんどん小さくなっていく彼女の声。
全く、君はどこまで愛らしいんだろう。
僕はいつも、君の言動に振り回されてばかりだ。
だから…たまには御返ししてあげよう。
「君は、流星の異名を知ってる?」
「異名、ですか?」
「…流星の異名は夜這い星と言うんだよ」
「夜っ這…い!?そそそれって…!」
君も、夜這いの意味は理解しているようだ。
だけど、夜這い星の意味は知らないみたいだね。
それならば、僕がじっくり教えてあげよう。
「た、け…」
ただし…それは夜が明けてから…。
夜這い星…魂が抜け出て、好きな人のところへ会いに行く姿の例え。
「夜這い」は「呼ばう」の連用形で、「夜、恋人のもとへ忍んで通うこと」の他、「呼び続ける。何回も呼ぶ」という意味があり、その名がついた。