私の居場所(番外編)
林の中に、こじんまりと建つ社。
僕は、今日もこの場所を訪れる。
小娘と最後に別れたこの神社を…。
彼女の涙顔が、ずっと頭から離れない。
だが、あの時の自分の選択は正しかったのだと今でも信じている。
平和な世界で育ってきた小娘。
僕といたために、何度危険に晒したことだろう。
傍にいて欲しいなど…おこがましいことだ。
彼女と出逢えたこと自体が奇跡なのだから。
僕は自分が切った注連縄を見つめ、手を合わせた。
―小娘、君の幸せをずっと祈っているよ―
その時、後ろから足音が聞こえる。
参拝者か…?
だが、幾度もこの神社を訪れているが、他の参拝者を見たことがなかった。
ということは…
僕を狙った刺客か…。
僕には彼女との思い出に浸る間もないようだ。
僕は、極限まで近付いた相手の腕を掴んだ。
「きゃっ」
だが、聞き覚えのあるその声に、一瞬時が止まった。
僕に腕を掴まれたせいで転びそうになるその人物の身体を支える。
…小娘…?
まさか…。
これは、幻…か…?
「…半平太さん」
何も口にすることが出来ずにいると、彼女が優しく僕の名を呼ぶ。頬に触れれば、その感触は紛れもなく小娘のもので。
俄には信じがたかったが、彼女の身体の温もりが、夢ではないことを教えてくれる。
小娘は僕を抱き締めながら、思いの丈を打ち明ける。
「ずっと…傍に居させて下さい」
彼女の言葉に、もう自分を抑えることが出来なかった。
僕は壊れるくらい小娘の身体を力強く抱き締めた。
「半平太さん!あの一つ星、きれいですね」
「ああ、本当だね」
僕らは宿屋に向かって歩き始めていた。
「宿に帰ったら大騒ぎになりそうだな…。皆、君に会いたがっているから」
「はい!私も皆に会うのが楽しみです!…あ…の、ところで半平太さん、」
「なんだい?」
彼女は不安そうに僕に尋ねる。
「私がいなくなって…どれくらい経つんでしょうか?もう、一年とか?」
突飛な彼女の言動に僕は首を傾げる。
「いや…そんなに経ってはいないよ。何故そんなことを聞くんだい?」
すると、彼女は不思議そうな顔をしたかと思うと、すぐに笑顔になった。
「いえ、何でもないんです!それなら良かった!じゃあ…まだ奥様なんて、いない、ですよね?」
躊躇いがちに聞く彼女に、思わず笑みが零れた。
「僕は、一生誰とも添い遂げるつもりはなかったよ。僕は生涯、小娘だけを思い続けると言っただろう?」
「…はいっ!」
小娘は真っ赤になりながらも嬉しそうに答える。
僕は、彼女の手を握って、宿屋への道を急いだ。