私の居場所(3)


「なんで…?」

私は、その場にへたりこんでしまう。

あの時みたいに制服じゃないから?
それとも…。
いろいろと原因を考えていくうちに、ひとつの可能性が思い浮かぶ。


あっちの世界の注連縄を…半平太さんが切ったから…?


そ…んな…。
もし、そうだとしたら二度とあちらの世界には行けないの…?
私は絶望感に打ちひしがれる。

その時、着物の袂から何かが転がり落ちた。
それは、半平太さんに買って貰った根付だった。


半平太さん…。
あなたに会いたい。
会って、この想いを伝えたい。

私は、根付を握り締めながら、再び立ち上がって注連縄に触れる。

半平太さんとの出逢いは偶然じゃなく、必然だったと信じたい。
もう、あの人以外には何も望まないから、だから…。


―私を、あの世界に還して…。


そう祈った時、突然地面が揺れ始めた。
同時に光に包まれて、目が眩む。
私の意識は、ゆっくりと失われていった。



風の冷たさと体の痛みで目が覚める。

ここは…?


ぼんやりとしたまま、上体を起こし、辺りを見回す。私は思わず、目を見開いた。
赤い鳥居が私を見下ろしている。

「ここは…初めて皆に会った場所…」

私は、還って来れたんだ…。
そう思うと、急速に力が抜けていく。

だけど、私は気持ちを奮い起こして、再び走り出した。


お願い…。
半平太さん、どうか、いて下さい…。


神社に着いた頃には、夕日が沈みかけていた。
私は息を整えて、神社を見据える。
見知った後ろ姿が目に入った瞬間、どくんと心臓がはねた。

あ…れは…。

私は一歩ずつその人に近づいて行く。
なかなか距離が縮まらないのがもどかしくて、つい急ぎ足になる。
そして後ろから飛び付こうとした瞬間、突然腕を掴まれてバランスを崩した。

「きゃっ!」

転ぶのを覚悟した私は、目を瞑る。
だけど、どこにも痛みはない。

あれ…?
どうして…?

ゆっくり目を開いた私の目の前にいたのは―


「…半平太さん」

愛しい人の姿がそこにはあった。
彼は目をしばたきながら、私の顔をさする。

「小娘…?僕は夢を見ているのか…?」
「…夢じゃないです」

私は半平太さんに抱き着く。

「…還ってきたのか?」
「はい」
「馬鹿なことを…っ。何故こんな危険な世界に還ってきたんだ…。君には、幸せになって欲しかったのに…」

半平太さんの顔は悲しそうだった。
だけど、私は微笑んで彼に答える。

「だから、です。幸せになりたかったから…あなたの傍に還ってきました」
「小娘…」
「だめって言っても、私はあなたの傍にいます。だって…」

私は、頬が紅潮していくのを感じながら続きを話す。


「あなたのことを愛してるから…」


半平太さんは苦しそうに話し始める。

「僕は…注連縄を切ってしまった…」
「…はい」
「だから…この先小娘が元の世界に還りたいと願っても…還してやれないかもしれない…」
「良いんです…。それで…。ずっと…あなたの傍に居させて下さい…」
「小娘…」

私は、半平太さんを強く抱き締める。
彼の肩越しに空を見れば、一つ星が見えた。
星は、私達の再会を祝福してくれるかのように、強く光輝いていた。

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