ちいさなお客さま(2)


その予感は外れることなく、僕にそっくりなその子どもは、昼餉中も何かにつけて小娘に甘えていた。
小娘も小娘で、嫌がる素振りひとつ見せず、時には慈愛に満ちた笑顔まで見せるものだから、高杉さんも怒るに怒れず、終始ぶすっとした表情をしていた。

「それで、あの…この子は、迷子なんです」

食後の茶を用意する小娘に、一斉に視線が集中する。

「迷子だとぉ!?武市とは全く関係ねぇって言うのか!?」
「は、はい…。この子には、ちゃんとお父さんもお母さんもいるそうなんですよ。ね?」
「うん」
「だ、だがなぁ…。」
「私も、始めはどうしようかと思ったんですけど…。でも、女将さんに相談したら、ご両親が見つかるまで置いてあげましょうって話になったんです。だって…」

「ねぇねぇ」

たったいま迷子だと紹介された子は、神妙な面持ちで話す小娘の膝の上に乗ると

「小娘は、このなかでだれがいちばんすき?」
「えぇっ!?」

と突然とんでもないことを言い始め、危うく僕は茶を吹きそうになった。

「い、今言わなきゃだめ…?」
「だーめ!」
「え、えっとね……」

ちらりと僕を見遣ると、すぐに彼女は顔を逸らしてしまった。こんなやりとりをしている場合ではないと思いつつも、心なしか僕の頬も熱を帯びている気がした。

「もちろん、ぼくだよね?」
「え?……う、うん、そうよ」
「えへへ。よかった」

…この言い知れぬ疎外感はなんだろう。しかしそれを感じているのは、どうやら僕だけではないようだ。

「あの子、本当に武市さんの子じゃないんスか…?」
「俺も…そう思ったところだ」
「以蔵、中岡。何か言ったか」
「馬鹿らしい!!俺はもう帰る!!」

固まったままふたりを見つめる以蔵と中岡をその場に残し、僕は高杉さんを送るべく玄関へと向かった。まだ半日と少ししか経っていないというのに、まるで徹夜明けのような疲労感が襲ってくる。

「俺は…ただの迷子だなんて信じてないからな」
「………。無理もない話だと思います」
「もし、小娘が悲しむようなことになったら、容赦しないからな。あいつは、長州藩邸で引き取る」

勢い良く閉まった引き戸を睨み付けながら、僕は拳を握り締めた。

「高杉さん、お帰りになりましたか?」

振り返ると、少し困ったような笑顔を浮かべた小娘が立っていた。今の話を聞かれてしまっただろうか。だが、それを確かめる勇気は出なかった。

「ああ…。あの子は?」
「今、他の女中さん達と遊んでます。皆さん、小さい半平太さんが来たって大騒ぎでした」
「そう、か……」

後ろめたいことなどないのに、小娘の目を見ることが出来ない。
僕にそっくりな子どもが突然現れて、彼女はどう思っただろう。

「半平太さん」
「ん……?」
「今日はもうお仕事終わりなんですよね?お着物に着替えますか?」

だいぶ慣れたとはいえ、隊服はやはり窮屈だった。いつもならば、仕事が終わればすぐに着替えていたのだが、今日はそれすら頭から抜けていた。

「ああ…そう、だね。手伝ってくれるかい?」


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