白雪姫はだれのもの?(2)
(…だがそれでは、王子が足りんな)
もしどわーふが皆白雪姫を好いていたのだとしたら、彼女は一体どうしただろう。それでも、やはり彼女の心は王子に捧げられていたのだろうか。ならば僕は、その他大勢のどわーふなんて願い下げだ。
「…僕は、君にひとりの男として見て欲しい」
日に日に募る想いは、行き場もなく激しさを増すばかり。だが今だけは、少しばかりの勝手を許して欲しいー。
「…おやすみ、小娘」
触れるだけの初めての口付け。
それだけで終わるはずだった。
君が、その瞬間に目を覚ますまでは。
「小娘、さん?」
「……え?や、やだ、私…眠っちゃってたんですね」
「あ、ああ…。君の寝顔があまりにも気持ち良さそうだったから、起こすのは可哀想だと思ってね」
気付かれてしまったのだろうか。
慌てて起き上がった小娘は、僕と目を一度も合わせようとしない。
「私、話しているうちに白雪姫の夢を見ていたみたいです」
「…夢?」
「はい、武市さんが、私、に―…!」
そこまで言ったところで、小娘は小さな手で唇を覆い隠した。
「あ、いえ、ちちち違うんです!今のは忘れてください!」
「小娘さ…」
「変なこと言ってごめんなさい!私、自分の部屋に戻ります」
「待って」
白雪姫は大好きな人の口付けで目が覚めたのだと、彼女は言った。
そして今、その夢を見ていたとも―。
「小娘さん。…明日も添い寝、してくれる?」
「えっ!?」
「駄目、かな」
咄嗟に手首を掴まれた彼女は、僕に背を向けたまま動かない。
だが、暫くして、その顔が小さく上下に動いたのが分かった。
「…良かった」
手首を解放された彼女は、後ろ手で障子を閉めると、あっという間に僕の部屋から姿を消した。
自惚れても、いいのだろうか。
夢に出てきた僕は、君にとって特別な存在だと、思い上がってしまってもいいのだろうか。
「明日は、君の夢の続きを聞かなくてはね」
そんな独り言を呟いた僕は、小娘の温もりが残る布団にくるまり、そっと瞼を下ろした。