代償2(前編)


「何だか不思議です」

ぱちぱちと弾ける火鉢に手を翳(かざ)していた小娘は、僕に寄り添いながらふと頭を傾げた。

「私よりも待っててくれた左門さんの方が暖かいみたい」
「うん?どうしてだろうね」
「でもすごく寒かったですよね?本当に遅くなってごめんなさい」
「…そんなに謝らずとも分かっているよ」

膝に乗せていた彼女を抱き締めると、きゃっと小さな悲鳴が上がる。折れてしまいそうなほど華奢な身体は、まだ氷のように冷たい。

「如何に怪しまれずに抜け出すことが大変なくらい。今日も苦労したんだね?」
「……はい…」

まるで指遊びでもするかのように、小娘は僕の手に指を絡ませる。赤く腫れた指先を見ていると、彼女が邸内で甲斐甲斐しく働く姿が目に浮かんだ。

「私が一人で出掛けるのを良く思ってないみたいで…。今日だって、平助くんが一緒に行くだなんて言うんですよ」
「…そうか」
「親切なのは嬉しいんですけど…でも…」

ちらっと僕を振り向き目が合うと、小娘は慌てて顔を落とした。

「…左門さんと二人きりで会えなくなるのは困ります…」

ぽそりと呟いた小娘の身体が徐々に熱を帯びていく。
ふと障子の隙間に目を遣ると、外は粉雪がちらついている。それを眺めながら、初めて小娘に声を掛けたのもこんな日だったことを思い出した。


『新撰組が可笑しな女子を囲っているようだよ』

僕にその噂を教えたのは、よりによって最も関わりたくないあの人だった。さっさとその場を立ち去れば良かったものを、僕はついその話に食い付いてしまったのだ。

『女子を…?あの新撰組がですか?』
『ああ。なかなか可愛い顔をしていたな。奴等さえいなければ路地に連れ込んでいたんだがね』
『…乾さん』

この男はいつもこうだ。
冗談なのか本気なのか、その顔だけでは判別がつかない。

『不謹慎な発言は命を縮めますよ』
『なんだ武市、妬いているのかい?大丈夫、僕は君のことも』
『失礼します』

長居をしてしまったことを悔いながらも、これは好機かもしれないと思った。
新撰組と共に暮らす女子。ならば、彼女に近付けば少なからず彼等の動向が分かるのではないか―?


「……左門さん…?」

いつの間に過去に浸っていたのか、気が付けば不思議そうな顔をした小娘が僕を見つめている。僕は彼女に手を伸ばし、その頬を包むように撫でた。

「ごめん。小娘と初めて会った日もこんな天気だったと思ってね」
「あ、そうでしたね。あの日偶然左門さんが助けてくれなかったら、私土方さんにもっと怒られちゃうところでした」

人を疑うことを知らぬ無垢な少女。
小娘は今でも信じているのだ。あの日の僕らの出逢いはただの偶然だったと。

「…小娘…」
「…んっ……!は、い……」

首筋に唇を滑らせると、小さな身体がぴくんと上下する。緩やかな弧を描いた項(うなじ)は、汚れを知らぬ童女のように白い。

「身体…まだ冷たいね」
「そ、んなことな…あっ……」
「僕が暖めてあげる。おいで」

抱き上げながら片手で帯を緩めると、小娘がきゅっと僕の胸許を掴む。解く音が羞恥を誘うのか、その瞳は固く閉じられている。

「は、恥ずかしいです…。まだこんなに明るいのに……」
「君は何時まで経っても慣れないね」

人目を憚(はば)かる事なく小娘に会える場所。出合い茶屋はまさに格好の待ち合わせ場所だった。だが、彼女は今もそれが何を意味するのか分かっていない。

「耳、真っ赤だよ」
「やっ……ま、待って…」
「駄目だよ。待ってあげない」

輪郭を舌先でなぞっていくと、小娘がもどかしそうな声を上げる。その反応見たさに、ついこの先を焦らしてしまいたくなる。

「…可愛い」
「ひゃっ…」

吐息を吹き込み、着物を剥がせば、透き通った肌が露になる。それに指を伝わせた瞬間、小娘が小さな声で僕に訴えた。

prev | top | next

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -