嫉妬と欲と(中岡慎太郎)

頬を桃色に染め、はにかむ姉さんの横顔は、以前にも増して美しくなった。

けれど、それは隣に微笑むあの人に向けられたもので。
その愛らしい表情も仕草も、俺のものじゃない。

あの日、どうして素直に言えなかったんだろう。

「―行くところがないのなら、俺を頼って下さい」

もしそう言えたなら、今頃あの笑顔は俺だけのものだったんだろうか。

「あ、慎ちゃん」

もう二度と手に入ることがないのなら、いっそ力ずくで奪いたい。
汚れた欲望のままに貴女を愛して、その小さな身体を壊してしまいたい。

「姉さん、走ると転びますよ」

貴女の存在は、一体いつになったら俺の心から消えるんだろう。もしもその日が永久に来ないのならば、この邪な心が暴かれる前に、貴女を嫌いになれますように。

 嫉妬と欲と(中岡慎太郎)


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