「……こんな場所で下着買うの?」

 ショッピングモール。その一角にある華やかな店を恥ずかしそうに眺めたなまえは、いたたまれなさに手元を遊ばせ始めた。白基調にキラキラしたライト。すました顔して立つ黒いマネキンには、女性用下着が着せられている。可愛いけど、背伸びし過ぎ。――イチ中学生でしか無い彼女には、縁が無い商品である。

「高校生なんだから、インナーにも気を遣わなきゃ駄目なの」

「一枚位持ってた方が良いよ。勝負下着」

「アンタ相手大学生なんでしょ? キャラクター描いてある下着履くの?」

 他人事なのにまるでお祭り騒ぎかの如く、三人の友人達は捲し立てた。

「見せる予定無いよ!」

「お泊まりするのに?」

 飄々と言い切った友人達は、お泊まりと性交をイコールで結んでいるらしい。中学三年生にしては、随分と大人な考え方である。

「…………そういうの、嫌いそうだし」

 黛の普段を思い出したなまえは、誘っても全く乗り気では無い姿に肩を落とす。黛千尋と云うダンジョンを攻略するには、まだまだ冒険を続けなくてはいけないようだ。

 特別可愛いとは思わないが、そこそこの顔とスタイルだと思う。でも……ああも毎回突っぱねられると、自身の魅力に不安を感じてしまう。

「そんな訳無いじゃん! 草食系だろうが、性欲はあるんだよ!?」

 通路に響いた友人の声に、男性が怪訝そうな顔をした。マセたガキがショッピングかよ……。彼はきっとこう思ったに違いない。

「声が大きいよ」

 友人をたしなめたなまえは、溜め息を吐いてまた同じ事を考え始めた。そうして輝やかに可愛い店内の下着を一瞥して、頭の中で実物より少しグラマラスになった自分に着せてみた。

「……先生、性欲あるのかなぁ」


 ……………………


 月曜日は朝から雨が降っていて、残暑と相まって嫌な一日になった。黒い傘を差した印象薄い男は、玄関先でソレを畳んで振った。付着していた雨粒が飛沫となり、ズボンを濡らす。

「……今日もマスクですか」

 なまえは、今日も顔を白いマスクで覆った黛にそう呟き、屋内に招いた。

「目、赤いです」

 男の充血した白目は、全体の白さに引き立てられよく目立っていた。灰色掛かった前髪からチラリチラリと覗く瞳は、今日も光を宿してはいない。

「何か喋って下さい」

 いつもの自室に着いた少女は、部屋の入り口を屈んで潜る男に声を掛けた。

「……一回帰って、十時にまた来る」

 業務連絡のような一言で、黛からの会話は終了した。

「ご飯! 宅配ピザ!」

 定位置に座ったなまえは、晩御飯の提案をしながらデリバリーピザのチラシを出した。しかし、黛は文庫本に視線を落としたまま、興味が無さそうに呟いた。

「……食欲、ねぇ」

「食べなきゃ痩せちゃいますよ。……ただでさえ細いのに」

 なまえは黛を心配する。彼は身長の割りにタッパが無い。痩せていて、細長いからだ。Tシャツから伸びる腕も、平均より肉厚が無い。

「……何か、いつもより冷たい」

 口を尖らせて黛を批難したなまえは、少しでも距離を縮めたいのに上手く行かない状況に不満を持つ。

 しかし、黛は冷たい態度を改めようともしない。あくまで彼は教師で、二十二時からはボディーガードだ。少女の恋人候補では無い。

「勉強しろ」

「ねぇ、先生……。好きなタイプと……――」

 ドンッと机を叩き、黛は赤く充血した目でなまえを睨む。

「勉強、しろ」

 そんな風に静かに怒る黛の中では、"昨日の出来事"が絶えずリプレイして、彼自身を苦しめていた。


 …………………


 土曜日。夕食時に込み合い始めたファミレス。男性用トイレに逃げ込んだ黛は、鏡の前で項垂れていた。――早く戻らなくては……。逃げ出したい気持ちを抑え、席に荷物を置いてきた事を悔やむ。

 何故自分が呼ばれたのか、理由が欲しかった。単純に、大学生活を知りたがっている訳では無さそうだ。

 口元で両手の指を組み合わせ、まるで神に祈るかのような姿を見せる黛は、この場から動けずに居る。

 相手集団も、中々戻らない元チームメイトを怪しんだのか、迎えを送り込んだ。トイレのドアを開けた葉山が、鏡の前の黛へ声を掛ける。

「うわ……。ウンコのキレが悪い訳じゃ、無さそうだね」

「あぁ……」

 来たのが葉山で安心した。彼はムードメーカーで、他の連中よりは気難しく無い。しかし、ソレも彼の検討違いだと数分後に気付く。

 葉山は腕に抱えた黛のリュックを振り回す。持ち主が「返してくれ」と言うそのタイミングで、とある質問を投げた。――いつもの軽い調子で……。

「――ねぇ、何でバスケ辞めたの?」

「関係無いだ……――」

「"お前らには関係無い"、とか言ったら……オレ怒って殴るよ?」

 雰囲気をガラリと変えた葉山の目は、まるで敵を見るようなモノだった。黛は瞬時に視線を逸らし、蛇口を眺めた。

「……黛サンさぁ、自分だけがツライとか思って無いよね?」

 ニコニコした顔は、意図が読めなくて逆に不気味だった。これなら根武谷に殴られた方がまだマシだ。アイツは強情だが、何を考えているかは直ぐに判る。葉山だって、普段はもっと判りやすい性格の筈なのに――敵に回るだけで、こんなにも雰囲気が変わるのか。

「オレらが今、どんな気持ちでコート立ってるか……考えた事ある?」

 黛が耐えられないプレッシャーと息苦しさに喉を抑えれば、元チームメイトはヘラヘラ笑った。

「試合中以外にそんな顔すんの、初めて見た」

 葉山は珍しいモノを見たと云う台詞を口にした。その位、今の黛の顔は感情溢れたモノなのだろう。鏡があるのに見れない。見たくない……。今の自分がどれだけ惨めな人間であると、知りたく無い。

「逃げたんじゃないって、そう思いたかったなぁ」

 胸に押し付けられた荷物を腕に握り、遂に黛は床に膝を着いた。

「次負けたら三連敗なんだよねー」

 崩れた黛なんか気に掛けない葉山は、鏡で自分の前髪を整える。そうして大して変わらない姿に満足すると、猫のような両目を先輩へと向けた。

「……そしたら、洛山の名前に泥塗っちゃうんだってさ」

 葉山は、別れの挨拶代わりに、自分達にのし掛かったプレッシャーを口にした。剽軽な言い方だって、そうでもしないと重荷を背負った肩から崩れてしまうからだ。

 何百と云う期待が、彼等四人を苦しめる。それだけじゃない。戦歴と云う歴史も、洛山高校と伝統もネームバリューも、これからの未来も全て全て全て――背負っているのだ。

 敗北とは、それこそが"罪"だ。結果だけが正義であり、彼等の全てだ。

 これ以上の敗北は許されない。プライドの問題じゃ無い。そんなモノ誇る為にコートへ立つなら、ユニフォームなんか譲れ。立てないのなら這いつくばってでも、王者を奪還しなければいけない。

 両手をズボンのポケットへ入れて軽快なステップを踏む葉山は、鼻歌混じりに男子トイレを後にした。残された黛は、化粧台に手を掛けるが足が震えて立てずに居た。


 葉山だけがテーブルへと戻って来た。まるで予想していたかのような顔をする三人は、お冷やだけが乗ったテーブルから立ち上がる。

「……厭な役、押し付けたわね」

 何と伝えたかは判らないが、葉山の顔は曇っていた。だから、実渕は申し訳無さそうに労った。

「別に? オレこう言う悪い役、やってみたかったんだー」

 直ぐに表情を変えた葉山は、嫌な役を自ら進んで買って出たのだ。

 彼等は只伝えたかった。たった一度の敗北と挫折感でバスケから退いた黛千尋に、自分達の境遇を……。

 『コッチは諦める事も、ましてや逃げる事も出来ない重圧の中に居るんだ』……そう言いたかった。

「気は済んだか? 行くぞ」

 組んでいた腕を戻した赤司は、三人へと声を掛けた。全員の顔がホッとした。このまま黛とバッティングはしたくない。

「――黛さんも、お前らのせいで逃げる事も出来ない。可哀想な役回りだ」

 赤司征十郎は、そう言って仲間の三人を鼻で笑った。

 何も頼まなかった客に対しても「ありがとうございました」と接客用語を使うウェイターは、直ぐに呼び出されたテーブルへ走る。

「黛サン、バスケの世界に戻んねぇかなぁ」

 日が落ちて暗くなった道を歩く。自転車引いた葉山は、心の中で黛千尋の復帰を望んでいた。座り込んだ男の旋毛を思い出す。自分のした行為に対して胸糞が悪くなる。

「無理だろ。あの人にそんなメンタルねぇよ」

 根武谷が黛を野次る。本当は、先輩であろうがあの男を殴りたかった。のうのうと逃げたあんな腑抜け野郎と同じ志を持っていたんだと思うと、堪えられなかった。……赤司の決意表明があんなに重たく無ければ、帰ろうとした男の頬にストレートでもキメていただろう。そうでもしないと、彼は一生逃げたままだから……。

「……アンタ、本当にそう思ってんの?」

 突っ掛かったのは実渕だった。彼もまた、心の何処かで黛の強さを信じている。

 彼等三人は、全員が全員、仲間に対して不器用だ。『信じているから』なんて口先だけの言葉で、この想いを濁したくは無かった。

「……うるせェよ、オカマ」

 そう呟いた根武谷は、空を見上げて月を眺めた。三日月になったソレは、何時も表情を変えずにソコに居る。


 ……………………


 葉山が退室した後、震える膝を庇いながら黛はトイレの個室に座っていた。贅沢を言えば解放感のある野外が良かったが、ココだって一人になれる。息苦しくはあるが、四人の待つ店内に戻るよりマシだ。

 考えた事も無かった。自分は負けた瞬間、自動的に引退が決まる。もうリベンジも出来ないんだと悔しがった。

 だが、残った人間は更なる激情の中に立たされていた。

 勝利が義務でしか無い。戦略は絶対で無くてはいけない。打つシュートのひとつひとつが重い。カウントダウンする秒数が怖い。点差少ないスコアボードが自分を追い詰める。観客席が応援と云う名の重圧を掛ける。白線で四方を囲まれた戦場に持って行けるのは己の肉体と頭脳だけ。

 バイカラーが目立つ赤毛の男が、ダンクでシュートを捻り込んだあの瞬間から、黛の情熱は時を止めた。試合会場へ信念を置いて来てしまった。他の四人は動き出していたのに……。同じ悔しさを二度味わっても、彼等は次の王座を狙う。

 日常と云うつまらない世界に逃げる事が出来たのは、自分一人だけだった。声も上げず、涙だけが頬を伝う。彼の泣き方は、こんな風にいつも静かだ。

 また、世界で一人きりになってしまった。【居ても居なくても変わらない】――ソレが男の価値だ。死んでも生きていても一緒。誰も参列しない葬式を想像して、背筋が凍った。

 このままで良いのか?

 逃げてきた道へ戻れば良いのか?

 ――また傷付きに行くのか?

 黛は、リュックを抱き締めてボンヤリするしか出来なかった。


 ……………………


【先生、寝ちゃった】

【チャンスぢゃん】

【恥ずかしぃ。。。】

 そんなグループラインに勤しむ二十三時。受験生の夜は遅い。床に敷いた客用布団に横たわり、寝息を立てる黛を見たなまえは溜め息を吐いた。

 発言通り、二十二時を少し過ぎた時間にやって来た黛千尋は、Tシャツにハーフパンツと云うラフな格好で来た。髪が少し濡れているのは、未だに止まない雨のせいでは無さそうだ。仄かに香る甘い匂いが教えてくれた。……お風呂、綺麗に磨いたのに。あわよくば一緒に入りたかったなまえは、ガックリと肩を落とすのだった。

 乙女心を知らないのか、はたまたわざとなのか……。とにかく黛先生は身持ちが固かった。張られたシールドは鉄壁で、今日と云うチャンスこそ"肉体行使"をするべきだ。

 ギシリとベッドを軋ませ床に降りたなまえは、黛の布団の中にお邪魔した。綺麗な寝相で仰向けにすやすや眠る男の上に乗り、ペタリと張り付いた。フンワリ香るシャンプーと柔軟剤が良い匂い。体臭が無に近い黛だからこその清潔感だ。

「……離れろ」

 ゆっくりと目を開けた黛千尋は、文句を口にした。しかし、相手は男の薄い胸板に額を押し付け感動している。

「先生、あったかい」

「離れてくれ」

「……やだ」

 駄目だと言っても聞かない相手に言葉を荒げてしまう黛は、引き離そうとなまえの頭を押す。

「自分が何してるか、分かってんのか?」

「――知ってるよ? 子供じゃないもん」

 なまえは上半身を起こして、掛け布団を剥ぐ。丁度腹筋と股間部の間に尻を載せ、大胆に開脚をした。

「大人な下着、履いてるもん」

 そのままTシャツの裾を持ち上げ、下着を見せる。昨日友人達と選んだ勝負下着である。薄いピンクのサテン生地に、サイドに赤いリボンがあしらわれている。所謂紐付きパンティで、リボンを解けば簡単に脱がせる事が可能だ。

「そういうトコが、ガキなんだよ……」

 スラリと伸びた白い太股を眺め、黛は呟く。柔らかそうな恥丘から筋のカタチが浮かぶ秘部は、布地により隠されている。

「――好きなの。先生の事」

 なまえの声は震えていた。初めての告白に、胸が高鳴り過ぎて吐き気だって感じる。このまま抱かれても、相手が黛だったら構わないし、"初めて"は好きな相手に捧げたい。

「コッチは家庭教師だぞ。迷惑だ」

 感情が見られない、義務的な返事にショックを超した悲しさが襲った。

「何でそんな事言うの!?」

「ガキのお前に教えてやる。好きだけじゃ、どうにも出来ない事だってある」

 初恋を"どうにも出来ない事"で片付けられたなまえは、激しく首を左右に振り意固地になった。

「嫌だ! 先生が好きなの!!」

 なまえが身体を寝かせて男の薄い胸板にすがり付くと、嫌そうな顔をした黛は上半身を起こす為に身動ぎをする。

「……帰る」

「やだ! やだやだ! やだぁ!!」

 破廉恥な格好で泣き言を叫ぶなまえに、額に手を置いた黛は質問を投げた。

「――……何でオレなんだ」

 欲しいのは、そんな判りきった結論じゃない。

 ――何故そうなったのか……"理由"をくれ。


「だって、先生何時も悲しそうなんだもん!! つまんなそうなんだもん!! 笑わせてあげたいじゃん!!」

「…………頼むから、ほっといてくれ……」

 どうせ最後は自分を傷付けるのなら、構わないで欲しいと、黛は願う。一時の感情だけで自分を"大切な存在"にしないで欲しい。軽々しい関係に溺れ、勝手に満足しないで欲しい。

 独りが好きなんだ。ずっとそうやって生きて来たんだ。居ても居なくても変わらない人間だったんだ。死んだ後も……きっと誰も自分を思い出さないし、痕跡だって遺せない人間なんだ。


 仲間に呆れられ、あんな目をさせてしまうのだって……。


「泣いてるの?」

 鼻を啜った黛は、視界が滲む前に目を閉じた。

「泣いてない」

 暗闇の中で細い指先が目尻をなぞり、水滴を奪っていく。

「触るな」

 閉じた目蓋の向こう側で、気配を感じる。無視していたら、唇に柔らかいモノがくっ付いた。温かくて、気持ちが良いと思った。

「……触るな」

 ――もう、どうだって良い。

 黛は、なまえの後頭部に手を回した。触れるだけのキスは長い間続き、息する事さえ忘れさせた。

「せんせ……っ、ん……」

 首筋に薄い唇が付いた。その瞬間、なまえの全身が粟立つ。

 何か、痕跡を残してやろう。自分が今日、ココに居たと云う痕跡だ。唇を首元の皮膚に押し付け、強く吸った。口内に相手の一部が入り、舌先でソレを押し返す。

 性交なんて、興味を持った事もない。ラノベによくある"情事シーン"に興奮する年齢でも無い。――でも、手のひらで温かい肌に触れると奇妙な感覚が身体を抜けた。

 キスマークを付け終えた黛は、ぎこちなく上半身を起こす。心臓が口から飛び出しそうなのを抑え、なまえの肩を掴んだ。手に力が入ってしまったのは、女性の扱いに慣れていないからで……――。

 布団に少女を組み敷いた。こんな光景を、世の男は見ているのか。暗い部屋で、月明かりだけがうっすらと輪郭を映す。Tシャツの下は、キャミソールだけだった。上下する胸元にキスを落とせば、相手は腰をモジモジさせる。

「……黛先生、震えてるよ?」

 黛の頬に華奢な指先が触れただけで、男の身体が小さく跳ねた。緊張で喉が渇き、張り付くような閉塞感を唾で剥がす。

 万歳させ露出した脇の窪みを、舌でなぞる。ビクリと大きく跳ねた少女は、汗ばんだ息遣いの中で少しだけ声を荒げ始める。

 脇腹を優しくなぞり、そのまま胸へと到着させた。

「ヘヘヘッ……、くすぐったい……」

 なまえの口から、色気も無い笑いが漏れた。それでも黛の手は止まらず、キャミソールごと胸を揉み始める。

 衣服の上から生暖かさを感じたのは、男が乳房の頂を口に含んだからだ。唾液が染みる布地を吸い上げる音が響く。ヂュウヂュウと湿った音を立て、歯で尖った乳首を甘く噛むと、なまえは遂に喘いだ。何時もより甲高く、鼻に抜けたような声が屋根を叩く雨音に紛れた。

「んあ……っ! あっ!」

 愛撫に夢中になると、黛の股間に熱が籠り始めた。ボクサーパンツの中で息苦しそうに身を大きくさせる自身が、外に飛び出したがる。

 直に見た乳房は、闇に紛れてよく判らなかったが、青白く染まった肌に陰影が映り、立体感を教えてくれた。

 手のひらの中で、脂肪がカタチを変える。指を沈み込ませ、円を描きながらカタチを戻す。何処と無くペン回しの要領に似ている。

 唾液が肌まで染み、少しだけ濡れていた。まんべんなく濡らす為に、直接口に含んだ。自分の身体には無い柔らかさと滑らかさだった。

「――んっ……先生、私に……嘘、付いてました、よね? っあ」

 頭上から、喘ぎ喘ぎの質問が降ってきた。這わせていた舌を止め、喋らせるのに集中させてやる。しかし両手の親指の腹で、テラテラに濡れた乳首を捏ねるのは止めなかった。

 熱い下半身をモジモジと動かしたなまえは、黛に聞きたかった事を口にした。ソレは、昨日友人から聞いた事実で……――。

「……洛山、ですよね? 高校の名前」

 顔を上げた黛は、この蒼く黒い空間で相手の瞳に刺されるのを感じた。