まるで馬鹿げた
   メロドラマ

惑わす指先

 心臓が跳ねて口でしか呼吸が出来なかった。下腹部の裏側が疼き、股関節の辺りがジンジンする。こんな感覚初めてで、ティーンズラブでよく見る『子宮がキュンと疼く』……と云う言葉を思い出した。

 文子は目が開けられず、固まる事しか出来なかった。頭の下には相手が普段愛用している枕があり、シャンプーの香りがする。イケメンは香りまで整っているのかと、胸が張り裂けそうになった少女は余計に目を瞑る。本当は電気を消して欲しいのに、撮影をしなきゃいけなくてそんなワガママさえ言えない。

「……生意気なのが悪ィんだからな?」

 相手の掠れた声が聞こえた。服を脱ぎ捨て、上半身を晒した男はベッドを軋ませて仰向けに寝る文子の上に覆い被さる。

「早くして……っ、ん……」

 生意気言おうとした口を塞がれ、喋る事も出来ない文子は、宮地の舌が唇を這う感触に疼く下腹部を押さえた。男も興奮したのか、小さく身体を動かして欲を逸らそうとしている。中々口を開かない文子に焦れた宮地は、ブラジャーごと彼女の胸を掴んだ。下着のセンスは彼の好みにマッチしたようで、彼も早急に脱がせようとはしなかった。

「……っあ、んっ……ん、あっ」

 漏れた喘ぎで唇を開けばすぐに舌が入り込み、口内を蹂躙し始めた。流れ込む宮地の唾液が甘い。舌と舌が重なると、不思議な気持ちにもなる。お互いに舌先だけが触れ、深くまでは交わらない。舌が離れ、下唇を相手の唇で挟まれると頭がフワフワした。

「こないだはノーブラだったのにな?」

 覆い被さっていた上半身を起こした宮地は、室内灯に照らされた文子の胸を掴んでゆっくりと揉んだ。固いワイヤー詰まったブラジャーが柔らかさを邪魔する。背中のホックを外すのも面倒な男は、隙間から人差し指を差し入れて、乳首の愛撫を始めた。カリカリと引っ掻くと、文子の身体が跳ねる。

「あっ、んあっ……! やっ、んっ」

 目を瞑ったまま眉を潜める文子は、目蓋閉じ何も見えない世界で胸の先に感じる快感だけを貪る。ジンジンする気持ち良さに気持ち腰が浮いた。

「今日は何だっけ? 言えよ、文子」

 文子が愛撫によりしおらしくなったのをこれ幸いに、意地悪な部分を見せた宮地は蕩けた少女に台本の内容を聞く。彼女は口を開きかけ、そして何も発せずに閉じた。


「――なぁ、お前ちゃんと勉強してんの?」

 今日の内容は【口淫】だ。指令に従った宮地は、舌の動きを止めず、薄い下着の上から女性器を愛撫し続けた。布越しにゾワゾワとナニカが動き、その感触に文子の腰が引ける。

 数分も繰り返していると、彼女の性器を隠す布地は宮地の唾液以外でも湿り気を帯びて来た。薄手のソレはすぐにドロドロになり、濡れて色が変わった今は、女性器のカタチをクッキリ写し出していた。

「………っあ、べん……きょ?」

「もうすぐ試験じゃん。頭が良さそうには見えねぇし」

 いつもの口調で世間話を続けながらの行為は、日常に非日常が混ざったようで、彼女の頭と身体を敏感にさせた。シチュエーションだけで愛液が溢れ、下着を内側から濡らす。

「してる……っ、してるからぁ……!」

 男の指先が下着のゴム部分に伸び、スルスルと脱がせようとした。慌ててソレを止めた文子は、注意をする。

「パンツ……脱がせないで……放送出来な……っ!!」

「じゃあ脱がせねぇよ、面倒臭ェ」

 そう言って、宮地はベタベタになった下着をずらして女性器に直接口を付けた。彼は親指でヒダを開き、ピンク色の性器を露出させる。――言われた通り、脱がせてはいない。

「やっ! 馬鹿ァ! 何、してっ……!」

 布越しに感じていた柔らかさがダイレクトに伝わる。擽ったさが全然違う。掬い取るような舌の動きはイヤらしさをより強くした。女性器のナカまで入り込もうとする彼の舌先は、ドロドロになった入り口を弄る。

「なぁ、クリトリスってどれだ?」

「っあああぁぁん!!」

 男が舌先で尿道口の方を舐めると、少女の声が大きくなった。尿道のほんと少し上に、気付かない程に小さい突起がある。開発されていない彼女の陰芽は皮を被っているかも判らない。でも、暴れ方が変わった。宮地が舌を動かす度に、文子の腰は激しく動いて逃げようとする。華奢な腰を腕で押さえた男は、小さい突起を集中して責める。そのうち段々と膨らんで来て、やっとカタチが判る位にまで大きくなった。

 シーツを掴んで、羽交い締めにされ動かせなくなった下腹部を浮かせた文子は、痺れるような快感が込み上げるのを感じた。宮地が舌でクリトリスを掠める度に電流のような痺れが気持ち良さを生む。ヌチャヌチャと跳ねる水音が、少女の耳をいたぶる。

「……スゲーベトベトなんだけど」

 急に愛撫を止めた男は、口回りを拭いた。予想以上に垂れる愛液は舐め取るにもキリが無い。イカせる事は出来なかったが、クンニでもう顎が限界だ。

「う……うるさいっ!!」

 起き上がった文子は、宮地のジーンズに手を伸ばした。彼女の頭の中は、『企画の主人公である自分がリードしなければいけない』と云う強迫観念があった。馴れないベルトを外し、ゆっくりとファスナーを下ろす。……盛り上がりテント張る前面部は宮地の興奮具合を視覚的に現していた。

「……っひ!」

 勢い良くジーンズとパンツを下ろした文子は悲鳴を飲んだ。宮地の性器は予想より大きく、そして長かった。陰毛を押し退け、天を仰ぐ肉棒。顔に似合わず赤黒く、見た目にもグロテスクだ。彼のファンは、中性的イケメンの宮地清志にこんな乱暴な性器が付いていると知ったら引くかもしれない。

 逃げるように顔を逸らした文子だったが、復讐のように後頭部を掴まれて赤黒い肉棒を口元に押し付けられた。ニヤニヤした宮地は、口を真一文に閉じた彼女へ命令をする。

「口、開けろよ」

 男は、細長い指で文子の唇に触れる。それでも開かない彼女の口に男性器の先を付け、線をなぞるように動かした。背筋がゾクゾクして整った顔を歪ませた宮地は、少女の乳房を掴む。

「開けねぇなら、胸使うぞ……」

 男は世界中から最低だと思われても、欲を出したかった。左手で逃げないように押さえた女の顔面に自身を押し付け、右手で胸を揉みしだく。乱暴な愛撫にさえ感じる文子は口の中で小さく喘いでいた。

「口、開けって……」

 親指と人差し指で乳首を摘まんで持ち上げ、捏ねる。芯の固いソコはぐにゃぐにゃとカタチを変えた。文子は少しだけ唇を開け、細長い性器を含んだ。

 美味しくなくて、苦しい。親指を何倍も大きくしたようなカタチに感触。膨れた先端とクビレが気持ち悪い。イケメンが持つにはグロ過ぎて、童顔気味な宮地のイメージには似つかわしくない。

 ――コレがナカに入るんだ……。そう考えた文子は、相手の身体の一部を大事に舐めた。歯を当てないように口全体で吸う。直ぐに顎が痛くなり、フェラで顔が小さくなる理屈が分かった気がした。

「……っは、あぁ……っ」

 そうやって喘いだ宮地は文子の頭を撫でる。愛撫していた手は止まり、男性器に纏う滑るような温かさに身を任せる。目を開けて、彼女の顔を見る。一生懸命奉仕する顔が可愛く思え、顔に掛かる前髪を掻き上げてやる。……多分、今の自分は酷く不細工に違いない。そう自虐した宮地は、半開きになった口から吐息を漏らした。


   2


 ティッシュの中に精液を出した宮地は、ソレをゴミ箱に捨てた。フェラチオだけでもゴムを付けるモノか悩んでいた時期もあるが、"必要無い"と今日知った。そうしてベルトを閉め直し、気だるい体躯をベッドに横たわらせた。

「……宮地、ねぇ」

 ベッドが軋み、背後では布擦れの音がする。肌を重ねた後は凄く恥ずかしく、またこんなにもむず痒いモノだと初めて知った彼は、照れ隠しにぶっきらぼうな返事をした。

「何だよ?」

 左腕を枕にしてアチラを向く宮地の白い背中に指を滑らせた文子は、クスクス笑いながら可愛い罵声を飛ばす。

「馬ァ鹿」

「はぁ? 自己紹介か?」

 首を捻り文子を見た宮地は彼女の裸体に慌て、顔を元の位置に戻す。そんな相手の気恥ずかしさを知らない少女は、いつものように男を野次った。

「本ッ当、減らず口」

「じゃあ減らしてやるよ」

 そう言って宮地は、わざとらしく黙り込んだ。でもそうすると、行為がフラッシュバックして頭を抱えたくなる。

「……宮地、ねぇ」

 文子は、再度宮地の背中をつついて彼を呼ぶ。勿論、口数減らし中の彼は何も言わない。

「順番……間違えちゃったね」

「は?」

 ようやく反応を見せた宮地は、今度は身体の向きを変えて正面から文子を見た。愛撫の為に外させていたふくよかな胸はタオルケットで隠すように命令し、自分は細くも筋肉質な上半身を室内灯の元に晒した。ついでに電源切っていないカメラに向かっても……だ。

「デートしてよ、宮地」

「良いな。暴行罪で警察署連れてってやる」

 十割が嫌味で出来たデートプランを提案すれば、彼女は剥き出しの肌に張り手を喰らわせた。皮膚が赤くなる程のソレを受けた宮地は、「いってェ!」と叫ぶ。

「映画館とか連れてけよ!」

 暴行犯はムードの無い相手を怒る。宮地は肌を擦りながら面倒そうに質問をした。

「今、何やってんの?」

 彼の耳元で観たい映画の囁いた文子は、クスクスと笑う。タイトルに聞き覚えがある宮地は、少しだけ記憶を手繰り寄せその映画のCMを思い出した。

「恋愛映画じゃねぇか!」

 てっきりカンフー映画でも観に行かされ、帰り道に影響された文子からハイキックを喰らわされる所まで想像していた宮地は、意外過ぎるチョイスに驚愕した。ペッティングしても、文子の印象は変わらなかったようだ。……今思えば、猟奇的な彼女によくフェラなんかさせたモノである。

「映画みたいな恋って憧れる」

 ウットリした顔で空想に耽る彼女をわざとらしく鼻で笑った宮地は、無意識下でこんな事を口にしていた。

「オレらが恋人になんならエロ漫画みたいだよな?」

「……は!?」

 宮地からしたら嫌味のつもりだった。……のだが、文子は意外にも顔を赤くして困惑する。ギクリとした男は、発言の訂正を始めた。

「な、なんねぇけど! お前とは!」

「あ、慌てるなって」

 真っ赤になった顔を突き合わせた宮地と文子。二人はどちらとも無くゆっくりと唇を合わせ、今度は長いキスを始めた。


   3


 勉学の為に解放された教室。仲良く並んだ宮地といつもの友人は、分厚い参考書と雑なノートに辟易しながら格闘していた。

 そんな学生らしい二人の座席の前にあるカップルが腰を掛けた。

「宮地君、今度暇な日いつ?」

 ギャルのようにケバい彼女が宮地に予定を聞く。脳内でここ最近のスケジュールを掘り返していると、ヤンキー崩れでスカした彼氏が肩を回しながら彼女の台詞へ説明を重ねた。

「皆で映画観に行くんだよ。お前らも来いよ」

「今、なんか面白ェのやってんの?」

「コレとかっ?」

 友人がラインナップを聞けば、彼女が一枚のチラシを出した。宮地は「あっ、ソレ」と声を漏らす。ソレは、つい先日にベッドで聞いたのと同じタイトルだった。彼女の持つチラシから視線を移動させた宮地は、友人に"どうするか"を問う。

「お前、行くか?」

「宮地様が行くなら、喜んで」

 まるで主人と下僕のような返事をした友人は、揉み手で宮地を茶化す。

「お前らコレなの?」

 ワル系の彼氏が頬に手を合わせ、所謂ホモやオネェのポーズを取る。二人は全力で首を振り拒否した。女子と縁が無く、サークルは恋愛禁止で暗黒のキャンパスライフを過ごしていると云うのに、更にホモカップルなんて噂が流れたら、四年間が悲惨なモノとなる。

「違うならよォ、彼女にダチ連れて来て貰うから。二人」

「最ッ高。大人しい子にしてね?」

 友人は背を丸めて机に顎を乗せ、ヤル気無い顔をする。ギャル系が好きでは無いようで、カップル彼女の友人に期待していないようだ。

「オレら恋愛禁止なんだけど」

 宮地がカップル彼氏にサークルの禁止事項を教える。だが、そんなので合コン話が流れたりしない。ケタケタ笑った彼氏は、宮地の肩を叩いた。ゴツい指輪が頬に当たりそうで、宮地は思わず顔を逃がす。

「宮地ィ、堅ッ苦しい事言うなよォ」

「宮地君、アイドルみたいな子連れてくよ? ミスコン入賞者」

 "ミスコン入賞者"に食い付いた友人は、顔を上げて目を輝かせた。

「えぇ? だったらオレ、ソッチが良い」

「ごめんねぇ? 向こうからのお誘いなの」

 彼女の謝罪に再度背を丸めて顎を机に乗せた友人は、口を尖らせて宮地に八つ当たりを始めた。

「宮地ィ、お前相変わらずモテんなァ」

「うっせぇよ」

 どこか乗り気になれない宮地は、ボンヤリと考える。サークルにバイト、考査試験……。やる事が多過ぎて、彼は眉根を寄せて悩む。

「ね、お願い。その子、高校から宮地君が好きなんだって」

「はぁ?」

 高校からと言われても秀徳はマンモス高だし、それに当時から結構告白を受けていた宮地は、その中にミスコン入賞者が居るのかさえ判らない。

「宮地、行けば良いじゃん。一緒に童貞捨て……――」

 友人は頭の天辺に打撃を感じ、顎を机上で潰され悶絶した。容赦無くゲンコツを喰らわせた宮地は、誤魔化す為に笑顔を見せる。

「また連絡すっから」

「バァ〜イ」

 用が済んだカップルは席を立つ。お互いの腰に手を回し教室を闊歩するラブラブっぷりは行き過ぎていて、宮地からすれば羨ましいとは思えなかった。

 顎を押さえて「バァ〜イ」と手を振る友人は、隙を付いて宮地の後頭部に水平チョップを当てた。考え事をしていた宮地は舌を噛み、悶絶するのだった。