とある読書家な青年の話。




「分からんなぁ」

 パタン、と本を閉じて、男は呟いた。

「何が分からないんだ」
「この本の内容がだ。なぜ人気なのか分からない」

 男は持っていた本をひらひらと振った。
 最近流行っているホラー系の小説だ。とある学校で同級生が次々と謎の死を遂げ、最終的に主人公は真実へとたどり着けないまま死んでしまう、そんな話だったと思う。

「最近の本の内容は、よく分からん」

 この男は、前にも流行りだという本を読んでそんなことを呟いていた。
 前に読んでいたのは、とある女に家族を殺された男が復讐をして、最後には殺した女の家族に殺される話だった。復讐が復讐を生む、典型的な物語だ。

「現実は嫌なことばかりだろう」
「そうだな」
「だからこそ、物語の中でくらい、幸せになりたいのではないのか」

 こんな救いも何もない話を、楽しいと読む奴の気持ちが分からん、と男は吐き捨てた。
 全員が死んでしまう話。誰も幸せにならない話。一度は終わったかに見えて、また悲劇が始まる話。誰も報われない、救われない。読んだって嫌な気分になるだけなのに、何故こんな話を読むのか。男には理解できないらしい。

「病んでいるのだろうな、多分」
「……趣味の問題もあるだろう」
「そんな趣味は理解できん。少なくとも、俺には」

 男は椅子から立ち上がった。本を押しつけてくる。

「読んでみろ。気分が悪くなる」
「気分が悪くなると言われて読む馬鹿がいると思うか」
「いないだろうな。どうせならこっちを読め」

 近くにある本棚から、男は分厚い本を取りだした。

「この棚に並んでいる本は全て、気分が悪くなる本だ」
「だったら何故薦める」
「学べることがあるからだ」

 人類の進化の過程において、宗教観の違い、民族間の諍い、他国との競争、利害関係などから起こる悲劇。人間の愚かさや残酷さを示した本をまとめてある本棚なのだという。

「くだらない死の話より、前に進むための本を読むことだ」

 手渡された本が重かったのは、分厚いからというだけではなさそうだ。




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