眠れない夜は2





 眠れない……。
 眠れない眠れない眠れない眠れない。
 眠れないったら眠れない。
 どうも今日はダメだ。意識し始めたら余計に眠れなくなってしまった。寝るってどうやるんだっけ?今まで俺どうやって寝てた?

 バサッと毛布から抜け出し、食堂へむかう。

(もう今日は寝るのやめた)

 寝ないのなら部屋にいても暇だし、何だか喉も渇いたし。
 昼間とは打って変わり静まり返った船内を進み、キィ、と食堂の扉を開けると、予想に反してそこには人がいた。


「ん?どうしたギル、こんな時間に」


 一人で飲んでいたらしいサッチがこちらを見て驚いたような顔をする。


「寝れないから……」


 サッチこそ何してんの、と返すとピラリと机の上に置いてあった紙を見せられる。


「新しいレシピをなー、考えつつ酒飲んでたんだ」


 チャポンと揺れる酒瓶の中身はかなり減っていた。どちらかというと、酒を飲むことがメインだったのだろう。


「俺も何か飲みたい」


 そう言うと、ちょっと待ってな、と頭を撫でられる。

 ピコピコ尻尾を上下させながら酒瓶をつついていると、すぐに湯気のたつマグカップを持ってサッチが戻ってきた。


「ほれ、これ飲んでお子様はちゃっちゃと寝なさい」

「お子様じゃねー」


 受け取ったマグカップに息を吹き掛けて、ちょん、と舌先をつける。熱いんじゃ、と警戒していたが、どうやらサッチが温めに作ってくれたらしく、そのままコクリと飲みこんだ。
 ほんのり甘いホットミルクが身体に染み渡る。




 こくこくと飲み続けるギルの尻尾は無意識にゆるゆると揺れていた。上機嫌な証だ、とサッチは飲みかけだった酒を煽る。すると、大人しくミルクを飲んでいたギルが急にずいっと身を寄せ、こちらを見つめてきた。


「俺ものむ」

「あ?」

「俺も酒のむ」


 のむったらのむー!と駄々をこねるギルの頭をぺちりと叩く。


「だーめ。お子様にはまだ早いです」

「子供じゃねぇ!エースだって俺くらいの歳でもう飲んでたって言ってた」


 エースの野郎、余計なことを……。大方、ギルに酒を飲まして酔ったところをあわよくば、とでも考えていたのだろう。


「さっちー」

「そんな風に言ってもダメなもんはダメだ」

「なんれー!」


 俺ものむのー、と言いながらぐでんと寄り掛かってくるギルからマグカップを取り上げ机に置く。


「ほーら、サッチ様特製ホットミルクで眠くなってきただろ」


 もう寝なさい、と背中をポンポン叩いてやると、すぐに小さな寝息が聞こえてくる。
 ほんのり顔を赤くして、胸に擦り寄ってくるギルは破滅的に可愛いが、こんな所を過保護な兄貴にでも見つかったら俺の命が危ない。
 サッチは腕の中で眠るギルを抱え、見つかる前に部屋まで運ぶことにした。


「それにしても、あんな少量のウォッカでこれとは」



 やっぱり、まだまだお子様だな。


















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あとがき
実はホットミルクにちょっぴりウォッカをまぜていたサッチ。




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