「もしもし」
「あなまえ?」
「ごめん。高熱が出たから休みたいんだけど」
「了解!有給にしとくね、今日上司の連中はみんな出払ってるから大丈夫。薬買っていこうか?」
「ううん、大丈夫、ありがとね」
電話を切って枕に顔を埋めた。
熱なんかない、具合も悪くない。
いっそのこと熱で頭がぼーっとしていたら考え込むこともなかったのに。
「今日か…」
結局、別れの言葉すらまともに言えなかった。
だからと言ってどうすることもできないし、今日から部長がいなくなる会社に行く気すらしなかった。
時計を見れば1時間半後は彼の出発時間。
無意識にドアに目を向けた。
何しようとしてるんだろう。
私の馬鹿。
今彼を追いかけて空港まで行ってもどうにもならない上に、今より後を引きずってしまうようになるに決まってる。
私はため息をついて布団にもぐり込んだ。
起きたときは1時間半以上経っていることを祈って目を瞑った。
騒がしい電子音で目が覚めた。
反射的に時計を見れば1時間半はたっていなくて、がっかりした。
しつこく鳴っている携帯を開いて画面も見ずに耳に当てた。
「もしもし」
「なまえさん、」
「…っ」
息をのんだ。
「なまえさん、切らないでください」
「…」
切ろうという発想すらなかった。
「なまえさん」
「…」
名前を呼ばれる度に喉の奥に言葉が溜まっていく。
「愛してます」
「…私、も、愛してます」
でも、その言葉はすんなりと出てきて、私が一番驚いた。
結局これが本音だったんだ。
「これからも僕は…」
「駄目ですよ」
「…」
一度本音が出れば止めたくても止まらない。
「お互い辛くなる。あなたが辛くなくても、私は辛いんです。もっと一緒にいたい、本当は帰って欲しくなんかない。」
私はやっぱり泣いていた。
「泣いているんですか?」
「…泣いてないです」
「声が震えてる」
「…」
「なまえさん」
"行かないで"と言おうとしたとき電話越しに搭乗を促すアナウンスが聞こえた。
「…」
「さよなら」
「…」
「レギュラスさん、」
「なまえさん、また会いましょう」
「いいえ、さようなら。レギュラスさん」
震える声を必死に押さえて交わしたちぐはぐな別れの言葉を合図に私は電話を切った。
枕に顔を押し付けて、誰にも聞こえないように大声で泣いた。
―――――
「もしもし」
「高熱?」
「うん、まぁ…」
「りょーかい」
月に一回のズル休みは習慣になってしまった。
おかしな事に、誰もそんな私を咎めなかった。
ちゃんと仕事はしてるけど、これでいいんだろうか。
「仕事か…やめよっかな」
脳裏に浮かんだことを言葉に出してみてはっとした。
仕事がすべてだった私はどこへやら。
確かに仕事は好きだけど、昔ほどの意欲は無いことは確かだ。
ピンポーン
玄関の呼び鈴が鳴った。
「はい」
「速達です」
「どうもお疲れ様です」
受け取ったのは手紙だった。
きっとまた実家の母からのお見合い話に決まってる。
速達だなんて、どんだけ焦っているんだ。
机に封筒を放り投げて、コーヒーを淹れる。
椅子に座ってから、やっぱり封筒が目に付いた。
"そろそろお見合いぐらい引き受けてあげようかな"
そう思って封筒を手に取り封を切った。
「…っ」
一瞬心臓が止まって、眩暈がした。
懐かしい香りと共に封筒から出てきたのはイギリスへの片道切符だった。
そういえば、宛名はまだ確認していなかった。
反省とお詫びと
まず、ここまで読んでくださってありがとうございました。
ラストは色々と迷ったんですがこんなよくわからない形になりました(笑)
レギュラスが上司だったらやばくね!?危険な恋ってかオフィスラブよくね!?
といった感じで衝動的に始めた長編、はじめの頃はもう全部消しちまおうかとも思ったこともありましたが、最後まで書けてよかったです。
これも、読んでくださったなまえさまのおかげです。
ありがとうございました!
レギュラスが上司になってくれるならタダ働きでも喜んでします。
11/05/17/ ひそ
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