Logic×赤褐色 企画 ひそ作



『ゴンッ』

隣の部屋から壁を強く蹴る音が聞こえた。
あと15秒であいつが来るって合図だ。

ピンポーン、ピンポン、ピンポン、ピピピンポーン
連打されたチャイムが部屋に鳴り響いて、俺はドアへ近づく。


「誰だー?」


分かり切った事をわざとらしく尋ねた。


「シリウス、開けて」


怒りを抑えたようななまえの声が聞こえた。


「おお怖い怖い、誰ー?」

「…シリウス!早く開けろ!」

「えーどうしようかなー」


『ゴンッ』


ドア越しに聞こえる音、今日は随分ご立腹のようだ。
2打目がくる前に鍵を開けてドアを開ければ、なまえはドアの隙間から滑りこむように入って来て俺の頬目掛けて平手打ちをした。


「いてぇー」

「謝ることあるでしょ」

「えーっと、あり過ぎて何謝ればいいかわかんねぇ」

「てめぇ」


また俺の頬目掛けて飛んできた手を回避するため、腕をつかんだ。


「離して」


そしてすぐ振り払われる。


「で、今日は何用だ?」

「”何用”じゃないわよ!あんたまた私の下着盗んだでしょ!」

「でもお礼置いてただろ?ベランダに」

「ハァ?お礼ってこれのつもり?」

「そうそう」

「ふざけんなっ!」


投げつけられたのは、俺のエロ本。
“俺の“というか、なまえにあげたから今は”なまえのエロ本”だけど。


「どうだった?」

「何のことよ!」

「見ただろ?エロ本」

「見るかボケ!」

「うっ」


脛を蹴られるのは予想外だった。


「見てねえの?」

「まだ言うか」

「もったいねえなー、これ俺の一押しだったのになー」

「あんたの一押しなんか知るか!」

「そうかー残念だなー」

「うるさいな!とっとと下着返せ」

「お茶飲んでくか?」

「飲む訳あるか!」

「昨日ケーキ貰ったんだよな、俺」

「…」

「紅茶も新しく買ったから淹れようかな」


俺はコーヒー飲むけど。
もちろん紅茶もケーキもなまえを家に呼ぶ口実のため俺が買ったもの。


「確か、なまえの好きなメーカーだった気がする。高かったんだよなぁ」

「お邪魔します」

「はいはい」


俺より先に廊下を歩くなまえが突然立ち止まって振りかえった。


「下着返してよね」

「わかったわかった」


ここで抵抗してもまた殴られるから適当に答えた。





「てかさー」


ケーキと紅茶に集中していたなまえが口を開く。


「毎回毎回、どうやって家に入ってんの?」

「それは…」

「出せ、」


とっさの上目づかいにドキリとしない訳がない。


「合いカギ、出せ」

「…いや、持ってないし」

「嘘つけ」

「だって合いカギなんていつ作るんだよ」

「それもそうか…」


案外単純ななまえが微笑ましくて、微笑みかければ”何ニヤついてんのよ、こっち見んな”と睨まれた。


「もしかして…」


ハッとしたようになまえが俺を見た。
まさか、俺の出入り方法がバレる訳はないが、万が一の事を想像して少しどぎまぎする。


「ベランダ…」

「は?」

「…」

「…」


予想外の言葉にお互い黙りこむ。


「ベランダ?」

「違うの?」

「え、何だよ」

「ベランダの緊急時用の扉突き破って来てるんじゃ…」

「ぶっ」


笑いをこらえきれなかった。


「何笑ってんのよ、ぶっ殺すぞ」

「てかお前さあ」

「何よ」

「可愛い顔してんだから言葉づかいどうにかしろよ、嫁行けねえぞ」

「はっ、あんたに心配して貰う筋合いないしー」

「そうだ、いいこと考えた。俺の嫁になればいいんじゃね?」

「…」

「…」

「ちょっと、ドヤ顔やめて、不快。てか本気で言ってる?」

「本気にきまってんだろ」

「自分の旦那とか妥協したくないし」

「俺で妥協して、どいつに本気になるんだよ」

「そこら辺にわんさかいるわ」

「こんなになまえ想ってる奴なんていねえよ」

「…」

「な?」

「帰る」

「なんでだよ」

「なんでもよ」


顔真っ赤にしたあたり、脈ありかなと自惚れた。

そういえば、あいつ下着忘れて行ったな。
返さないけど。

そうだ、今出て行ったあいつの部屋に俺が先回りしてたらどんな反応するかな。
とっておきの悪戯を思いついて、叫び声をあげるなまえを想像しながらあいつの部屋へ姿あらわしをした。



11/04/21/



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