“昨日の事だと思っていること”は夢だったんじゃないか、目が覚めたときそう思った。
いつも枕元に置いてある携帯がなかった。
携帯アラームが聞こえなかったにいつも通り起きれてよかった。
携帯を確認するためにかばんを漁った。
…ない。
まさか、と思った。
ここにないなら忘れた場所の想像は大体つく。
“夢だったんだ”と思えていた記憶が鮮明に蘇ってきて頭を抱えた。
やっぱり夢であってほしい。
その場でずっと立っているわけにもいかずに、だらだらと支度をして、不安な気持ちを抱きながら家を出た。
「おはようなまえ!」
「おはよう」
いつも元気だなと思った、けど言わなかった。
「ね、今日飲み会だから」
「え、何それもう決まってるの?」
「部長歓迎会もなまえの昇進祝いもまだやってないでしょ」
「えー私はいいのに」
「いいからいいからっ、今日しかみんな時間合わないだもん。月末になったらまたみんな忙しくなるしさー」
「わかったわかった」
面倒くさいとは思っても断る気も起きずに自分のデスクについた。
“出勤後、部長執務室まで”
そう書かれたメモがデスクに置いてあった。
少しドキリとする。
執務室に行ってブラック部長と話してしまえばやっぱり夢だったって思えるんじゃないか。
そんな根拠のない期待を胸に部長執務室のドアをノックした。
「失礼します」
「みょうじさん、これ昨日社内に忘れてましたよ」
「ありがとうございます」
渡された携帯が”昨日の事は現実だったんだ”って物語っているようで一気に気まずさが増した。
「あの、僕、中見たりはしてませんから」
「あ、いえ、わざわざありがとうございました」
「じゃあ、今日も頑張ってください」
「ありがとうございます、失礼しました」
昨日の事について触れられなかった。
ブラック部長のいつもと変わらない笑顔を見たら携帯の事はさておきやっぱり夢なんじゃないかと思った。
それでもやっぱり…とぐるぐる回る考えのせいで仕事が手に付かないのも困るので一時の間忘れることにした。
「なまえ―よかったねー昇進できてー、あんた頑張ってたもんねー」
「はいはい」
酔っぱらった同僚を軽く流して時計を見る。
早く帰りたいな。
「そろそろ次行くか!」
誰かが口にしたとたんため息が出そうになった。
でも行く気はない。
「ごめん、私明日仕事だし今日はこれで、ありがとうね」
「えーなまえ帰っちゃうのー?」
「僕もそろそろ」
「部長もー!?」
「主役2人とも居なくなっちゃうなんてー」
「みんなは2次会楽しんで」
「えー、部長、この子確か部長と同じ方面なんで送ってやってください」
「え、何言ってんの」
「わかりました」
「部長、いいですよ!私一人で帰れますから」
「でもでもー、こんな時間に女一人で歩いちゃ危ないってー」
「そうですよ」
「えーでも…」
「どうせ同じ方面なんですから」
「すみません…」
他の人たちが2次会へと向かう中、私たちは2人で歩きだした。
11/04/19
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