「本日から部長として配属されましたレギュラス・ブラックです。よろしくお願いします」


目の前に立ち、部長だと名乗るその人は私より若いように見えた。


「若い上司よねー」


隣で声を潜めて話しかけてきた同僚に私は黙って頷いた。


「でも超イケメンよねー」


どうだろう。
確かに顔立ちは整っていると思ったけど、興味がない私はなんとなく聞こえなかったふりをした。


「それから、みょうじ なまえさん」

「はい」


まさか呼ばれるとは思ってなくていささか驚いたけど、返事はスムーズに口から出た。


「あとで僕の執務室まで来てください」

「…はい」


今度は戸惑いが表に出てしまった気がする。

部長に呼ばれるとはいったいどういうことだろう。
入社して3年間、部長に呼ばれることなんて一度もなかった。

"減給?"
"飛ばされる?"
何の根拠もなくそんな考えが浮かんだ瞬間背筋がぞっとした。
今まで身の回りにそういう人は居なかったけど、新しい部長のすることなんて分からない。

同僚が何とも言えない視線を向けていることも目の端で伺えた。


―――…


緊張で苦しくなりつつ胸を沈めるために深く深呼吸をしてドアを丁寧にノックした。


「部長、みょうじです」

「…どうぞ、」


一間置いて返事が返ってくる。
私も一間置いてドアを開けた。


「失礼します」


執務室内は少しコーヒーの香りがた。


「そこに座ってください」

「…はい」


デスクの前に対に置かれたソファーに座るように促された。
ただの一社員がここに座るように促されることがあるの?
普通ここには商談の相手だとかが座るんじゃないの?
そんなに長い話をされるの?
疑問を抱きつつそっとソファーに腰掛けた。
部長も向かい側に腰掛ける。


「社長からあなたの業績は伺いました。大変な業績をおさめているようですね」

「ありがとうございます」


でもそこまでいい業績をおさめた覚えはない。
ただ営業も残業も男並に力を入れているだけ。
"女性なのに"だなんて色んな人から褒められるのがなんだか癪でただ他の男性社員と並ぶくらいに努力しているだけ。


「でも、」


その接続詞を聞いた途端まさかと思った。


「あなたには明日から今日までとは違う仕事をしてもらいたいんです」


"ああ来た"そう思った。

やっぱり自分は飛ばされるのか。
理由は分からない。
ただそう言うこともあるんだろう。

案外割り切れる自分に少し驚いた。
しかし不安がない訳ではない。


「明日から部長秘書として業務をこなしてください」

「っ…」


その言葉にはもっと驚いた。
それと同時にさっきまでの不安が一つのこらず消えた。


「…それはつまり」

「昇進、ですね」


私の心を読んだかのように彼は微笑んで言った。


「ありがとうございます」

「明日から頑張ってください」

「よろしくお願いします、それでは失礼しました」


部長執務室を出てからじわじわと沸いてくる実感に笑みがこぼれた。





11/3/19



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