いいっす、たまんないっすよ!なんてハァハァとピンクい画面(じゃないけど、っぽい画面)を見つめながら興奮状態に陥ってるゆまっちの背中をにらむ。
すると、その背中越しに、おっぱいが大きい美少女が、やんやんと首を振りながら悶えていたので、声優さんも大変だなぁとかチラッと思い、紙パックのジュースに差したストローをガジガジと噛む。

何だっけ?
欲求不満?


ぺたんこになったストローを転がしながらゆまっちをもう一回にらんでも、相変わらず画面にハァハァしていたので、何となく無性に腹が立ったから、たいして長くもない足で目一杯の力を込めてガーン!って蹴ってやったら、ハァハァしてたゆまっちの身体が前につんのめる。

「いっ、たいじゃないっすか!」
「ざまぁみろーい」
「ぇ、何すかリコさん」

何を怒ってるんすか!まさか嫉妬!と若干期待も含めたような目で私を見るゆまっちがちょっとウザくて私はため息を吐く。

「べっつにー」
「ぇ、でも顔が面白くないって…」
「どうせ面白くも可愛くもない顔ですよ」
「いやいやいや」

え、何、どうしたの?って顔でゆまっちが私を見る。さっきまでは女の子にハァハァしてたのに、そんな真面目な顔も出来るなんて。
とか思うと欲求不満だった私の中の何かが殻を破って顔を覗かせる。

「つまんない」
「つまんない、すか?」
「ゆまっちは画面ばっかり」
「えーっと、つまり?」
「…パンツ見せたら私にハァハァしてくれるのかなぁって」
「は?」

え、いや、本当にどうしたの?って顔のゆまっちは色素が薄くてきれいな色の目をパチパチさせていたのが何となく悲しくなった私は、テーブルに置いておいた紙パックのジュースを引っ掴むけど、相変わらず画面はやんやんと女の子がえっちぃ顔をして世の中の二次元美少女愛好家をハァハァさせてるのに、現実ってか三次元ってこの程度か!なんて噛んでしまったせいで飲みにくいストローでジュースを飲んだら、口の中で甘い優しい味が広がって…なぁーんか泣きそうになった。

「リコさん?」
「ゆまっちなんか一生画面と仲良くえっちぃことしてろよバーカ」

悔しいのか悲しいのか。
八つ当りにも似た感情がぐるぐると渦巻く。
すると案の定ゆまっちは困惑しきり。

「…えっと…」
「いいもん、私、渡草くんとえっちぃ事してくるんだから!」
「…はぁ!?」

の、はずが、ガタン、ってテーブルが吠えた。
私のせいじゃない。
ついでに紙パックのジュースが傾いて中身が跳ねたのも私のせいじゃない。
私はただ、目を真ん丸くさせたままバカみたいに縮こまってるだけだ。

だって目の前に、ねぇ?
心底驚いたような困ったような怒ったようななんか、ちょっと怖い感じのゆまっちの顔(いや、でもカッコいい…ちくしょう)

「ゆ、ゆまっち?」
「リコさん」
「な、んでしょう?」
「ハァハァしますから、パンツ見せてくださいよ」
「……………………死ね」

そんな鬼気迫ってそれかよ!って目を反らそうとしたら、がっちり私の顔はゆまっちの大きい手に挟まれて右にも左にも動かなくて、仕方ないから目をゆまっちの方に持っていったら、ゆまっちの顔があんまりにも真面目だった。

「ゆまっち?」
「…リコさんは」
「うん」
「何がしたいんすか」
「何って…なんだろう…?」
「ッ、それ!そのわかんないって顔やめてくれないっすかね!中途半端にさっきから変な期待だけさせておいて直面したらしらばっくれて、前からそうなんっすよ!大体そーゆーの無自覚とかたち悪すぎるんすよ!俺が!一体どれだけ頑張って我慢とかしてるか知ってんすか?!なんとか我慢して気を紛らわせようとして二次元に逃げたとこでパンツ見せたらとか、そーゆーのなんなんすか!見せたらじゃなくて見せて下さいよ!じゃなきゃ言わないでください!挙げ句つまんないとか渡草さんとえっちぃ事とか何だとか色々!!そんなん卑怯じゃないっすか!俺だってリコさんとえっちぃ事したいっす!!でもがっついたら引かれるかな?とかそーゆーの…ああああぁぁぁぁああ!もう!!ムカつく、けど好きっす!!だから、だから」

ぶわぁぁって、言葉が流れて迫ってきて息が詰まる。
多分それは拾いきれなくて苦しいとかじゃなくて、なんか嘘みたいに全部全部受けとめてしまったからで。

「ゆまっち」
「何すかっ!」
「それは、つまり私の事…」
「好きです。大好きっす」

本当はもっと格好よく告白したかったのに、なんて片手で顔を隠して大きなため息を吐くゆまっちを見ながら私は、さっきまでとは全然違う何かが沸き上がってくるのを感じる。

「ゆまっちーぃ」
「何すか」
「パンツ見る?」
「まじすか」
「やっぱやめた」
「え、何すか」
「ちゅーしよ、ちゅー」
「…止まる自信ないっすよ」
「やだ、変態め」
「男は基本変態っす」
「あぁ、画面にムラムラしてるもんね」
「いやいや、リコさんが望むなら」

プツン、って。
器用にもテレビの方を見ずに正確に電源を落とすゆまっちに、不覚にもドキドキしてしまったのは、完全に欲求不満の殻を破って欲求さんが出てきてしまったからだろうか、なんて。
なんかよくわかんないこと考えてごまかそうとしている私がいた。



(…ゆまっち、スカート捲らないで)
(…無理っす)
(死んじゃえ変態)


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