「かえれー!」

廊下に飛び出していったよつばちゃんが急に大きい声で吠えたから、何事かとドアごしに覗いてそして後悔した。



「へぇ、留守番!そりゃご苦労なこって」

嫌味ともとれる発言をしながら目の前の安田さんはパキンと音を立てて割り箸を割って、そして安っぽい匂いのするインスタントラーメンをズルズルってすするのを見て、よつばちゃんが凄くいやそうな顔をして私を見て、言う。

「よつば、やんだきらい」
「何だよ!やぶからぼうに!」
「私も安田さん、きらい」
「何だよ!弘瀬さんまで!」

俺は好きなのに!って箸で私を指して喚く安田さんを見て私の眉がぎゅってなる。
本当に私はこの人が嫌いだ。

「私は、小岩井さんが好きです」
「よつばもとーちゃんがいい」
「だから安田さんはダメです」
「そうだ、やんだきえろ!」

ラーメンのじまんすんな!って私の後ろに隠れて吠えるよつばちゃんをじとって睨み付けた後に、安田さんは私を睨む。

「報われないのにまだ言うか」
「わかんないくせに言わないで」
「高校生とおっさんだぞ」
「あなたもおっさんでしょ」
「バカ言うな」

俺はおっさんじゃないよなぁ、って安田さんは私の後ろで威嚇するようにぐるぐる吠えるよつばちゃんに話し掛けたら、よつばちゃんは大きい声で言う。

「しらないおっさんだ!」
「おい、そこはお兄さんだろ!」

ふざけんな、よつばこっち来い!と期待した答えと違っていた(当たり前!)事にカチンときたのか、安田さんはワザワザ立ち上がって来いなんて言ったくせに来る。
呼んでもないのに!なんて思う私の側でしゃがみ込んで、そしてよつばちゃんの頭をぐしゃぐしゃと混ぜて、投げて、そして、わぁわぁと一段と大きく吠えて、武器を二階に取りにあがったよつばちゃんを思い切り優しい目で見ながら立ち上がってそしてよろけついでに私の肩に手を掛ける。

「触らないでよ」
「折角側に来たのに」
「よつばちゃんは」
「口実」
「…汚い大人」

そう言って、肩に乗った手を払ったら、ふって苦笑いのようなため息を零して安田さんは言う。

「大人だからな」
「最低」
「…そんな可愛い顔して言われても」

煽ってるだけだよって。
安田さんは何の恥ずかしげも悪怯れも無く言って、そして私の髪を一房くるって指で回す。
それがまた何だか無性に腹が立って私は安田さんの足を右足で蹴飛ばすと、一瞬痛い顔をした安田さんが仕返ししてやろう、みたいな顔で私の足を左足で払うもんだから、案の定無防備な私は思惑通りバタン!床に叩きつけられる。

「っ、」
「あー、ゴメン。痛かった?」
「当たり前でしょう?!」
「じゃぁ、お詫びにさすってあげよう」

ホラホラホラ、とわざとらしく動かす指先に漸く揺れる脳ミソで判断した今の逃げ場の無いこの状況。

「っ安田さ!」
「ふははは!いい眺めだぜ!」
「や、すださん!!ちょ、」

やだぁぁぁ!って余韻が残って反響する廊下の先、バタバタと音がする階段の側で、ポツリと響く低音。

「人んちで高校生に盛るなヤンダ」

って。
明らかに家主ですよって小岩井さんの声と、え?羨ましいんすか?なんて嬉々とした安田さんの声と、とーちゃんおかえりー!ってよつばちゃんの大きい声と、悲鳴にも似た私の声が、小岩井家を埋め尽くしたのだ。


(安田さんキライキライキライ)
(もーいいじゃん誤解とけたし)
(そういう問題じゃ!)
(なら俺が責任取って弘瀬さんと付き合おう)
(ふざけんな!)


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