教室の床の上に鈍色に光る鍵が落ちているを見つけた。
でもその鍵は私が持っている寮の鍵なんかとは全然違っていて、何だか少し古くさい感じがした。

こういう時はどこに届けたらいいんだろう…って思ってあたりを見渡すと、数日前に入学したばかりの校舎が、ドアが迷路に誘うみたいに私の前に立ちはだかったので、あぁ、どうしよう!って私は鍵を握りしめた。
そうしたら手にまんまるの感触がして、慌てて手を開く。
すると、鈍色の鍵の丸い(なんて言うんだろうか)部分に通してあるストラップの先に付いた玉みたいな、ええっと。

ええっと、
(思い出せ、私!)

「あ、」
「え?」
「お!」
「へ?」

何だったか、思い出しかけたその時に、背後から声がして、そして声が前に回ってきたので、その声を目で追ったら、ふわふわの猫毛とやわらかいピンク色の合わさった人が目に入って、そしてそのまま声の波に流される。

「あったぁ!わぁぁ、よかっ!!ぁーめっちゃ焦ったわぁ」

無くしたら先生にどないして謝ろ思とってん!もしかしたら半殺しかもしれんなぁ思うて、気が気と違うかってんかぁ、っていうか、え?君が見つけてくれはったん??いやぁー女神様みたいな人やんなぁ!しかも目ぇくりくりして何やリスさんみたいやん!!これってもしかしてピンチが一転して、仲良くなれるチャンスなんかなぁ!あ、君名前何て言わはるん??俺の名前はなぁ――…。

「ぁ、の!」
「へ?」
「速いです、言葉が」
「あぁ、ごめんなぁ」
「あと、」
「ん?」
「弘瀬リコです、名前」

そう、流れる言葉にあっぷあっぷしながら、質問に答えたら、目の前のピンク色の人は、ぷはっ、って顔を崩す。

「堪忍なぁ、リコちゃん」

俺つい喋りすぎてしまうんよ、と言って、ピンク色の人は私の手のひらにあった鍵をひょいっと摘んでそしてまた口を開く。

「俺は志摩廉造」
「しまくん?」
「せや、多分隣のクラスと違うかなぁ」

だって俺のクラスにリコちゃんみたいな背格好の子おらへんかってんもん。
てか一年生って前提で良かったんかなぁ?もし先輩やったら、いやそれはそれで美味しいかもしれへんけども…あぁ、いや何でもあれへんよ、こっちの話やから気にせんとってくれたらええよっ、て…ぁ。

また流れる水みたいな言葉に、息継ぎが出来なくて少し目を回しかけていたその時に、しまくんは思い出したように手元の時計を見て、あからさまにしまった!って顔をした。
そしてばって顔を上げて私を見て、また少し顔を崩して笑いながら言った。

「これ、ほんっまにおおきにな」
「や、全然、そんな」
「いやでも拾ってくれたのがリコちゃんで良かったわ」
「気を付けてね、鍵だし」
「おぅ!」

ほんなら行きますわ、ってしまくんが上履きをキュって鳴らして方向を変えると、くるりってさっきまで流れてた声も向きを変え、たかと思えばもう一度私の目の前に飛び込んできた。


「また明日」


そしてバタバタと叩くように廊下を走るしまくんの背中を見ながら、私は今一度考え込むのだ。



(あの玉の名前は…明日、しまくんに聞こう)


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