まどかがね、っていつもみたいにリコと話をしていたら、不意に右手が伸びてきた。
「アナタの口からその名前が出るのが嫌」
そう言ってリコは、人差し指と親指に不必要な力を込めてボクの頬を抓って、そして離す。
もう何度目かのその行為に何かしら思わざるを得ないかもしれない、なんて浅はかにもとるに足らない思いが浮かびそうになったとき、あーぁ、なんて大袈裟にため息をついてリコはボクに言った。
「ねぇ、キュゥべえ」
「なんだいリコ」
「やっぱり私、魔法少女になりたい」
なんてリコはボクの目を覗き込むから、ボクの目に映るリコがリコの目に延々と映る。
そしてその繰り返しの中、ボクは右に首を傾げながら言う。
「それは命を賭けるに足る願いかい?」
本当に?
よく考えてみなよ?
と最早流れ作業の一部であるかのように何度も繰り返して使い回した言葉を放つと、リコは決まって口を尖らせる。
「キュゥべえはそればっかり」
「それは仕方ないさ」
だって、と思い返すと大体の魔法少女は、誰かの為に、自分の為にとかそういう類の願いを持って契約してきた。
それなのにリコはボクの為に魔法少女になりたい、だなんて言って笑う。
ボクはちゃんと予め大まかなリスクについても聞かれる分には教えたつもりだ。
対価は命だとハッキリ言ったのにリコは笑って、アナタの為に死ねるなら本望だよ、だなんて。
本当にワケがわからないよ。
「リコ」
「なぁに?」
「安易に死なないでおくれ」
確かに画期的だとは思う。
キミが死んだらボクの願いが叶うだなんて夢みたいなものだ。
だけど、何だか違う。
「ねぇ、キュゥべえ」
「何だい?」
「その言葉は私の為?それとも…」
「それとも?」
「アナタの為?」
なんて、リコが本当に嬉しそうに笑うからボクはただ何となく言葉に詰まる。
そして柄になく思慮してしまう。
もしかしたらこれは人類的にいう保護欲、あるいは恋情かもしれない、と。
(多分君が死んだらボクは"悲しい")
*