となりの席のササヤンくんという人はとってもいい人。
彼の周りに居ると皆笑顔になるし、彼は彼でまた無意識に皆を笑顔にしている。
しかも凄いのは老若男女、分け隔てなく。皆平等に対等に接している事。
例えば、問題児(って噂)の吉田くんや、超絶美少女夏目さん、天才秀才水谷さんだって彼の周りでは笑顔だ。(いや、水谷さんは違うか)しかも私はこの間の日曜日、彼が他校のヤンキーみたいな人たちと笑い合ってるのをみた。ついでにクラスメイトの下柳くんなんかは彼の傍にぴったりくっついていて小動物か何かのようだ。
つまり、だから、一体何なのだって言うと、つまるところ彼はきっと神様に愛された特別な人なんだろうと思う。
だって、彼はこんな私にも本当に優しい。

「また忘れたの?」
「面目ない」
「藤宮さんに借りれないの?」
「あっちゃんにはあんたの世話はしきれない!って叱られました」
「まぁ、そんなことだろうとは思ったけど」

しょーがないの、って言いながらササヤンくんは私にひとつ消しゴムを寄越す。
私はそれをありがたく受け取って、そうして頭を下げるのだ。面目ない。本当に。

私は昔から随分と物忘れが激しい、否、忘れ物が激しい。
前々から準備しておけば解決できるものとは思っていたけど、実際は忘れないようにしまっておいた物を本当にしまっておいたか確認するために取り出してしまったが最後、ってやつで、どうしても直前で忘れてしまうのだ。よくいう家を出る時まではあったのに!状態。
そんなのだから、友達にお願いお願いと手を合わせ借りる事何十回。流石に付き合っていた友達も匙を投げ、しまいには、「もう世話なんかしない」と絶縁状みたいなものを突きつけられてしまうのだ。
なんて悲しい。思わず滲みそうになる涙を消すように、プリントに書いた文字を消す。
するすると消えていく私の汚い文字が無くなっていくのを見送りながら私は涙を飲み込んで、そうして付いた消しカスをぱっぱと払って、そうしてササヤンくんに返す。

「ありがとう」
「いいよ別に」
「返す」
「いいよ別に、帰る時で」
「へ?」

ぱちり。
瞬きをして繰り返された言葉の意味を探る。だって消しゴムがないと困るのはササヤンくんじゃないの?って私の頭の中が言葉を作る。
まぁ私の場合忘れ物慣れっこだからこうした提出物以外は間違えた文字をぐるぐるってなぞって消したりするけれど、ここ2カ月くらいとなりの席で過ごした彼はそんな素振りは一切見せなかったのに。

「困っちゃうよ?」

そう問いかけた私に、ああ、と何かを思い出しかように動かす彼の手の先は、彼の愛用している筆箱。そうして取り出したのは、まだ反対側の角が四角い消しゴム。

「それ、弘瀬さん専用だし」
「え?」
「いやだって、ずぅっと忘れてんだもん。その度に藤宮さん達に泣きついてるの見てるし、それに困るでしょ、無いと」
「そりゃ、困るけど」
「ね?だからさ、もうそれ学校に置いて帰っちゃいなよ。っていうか俺が持っとくから、必要なときに言ってくれれば貸すし」
「じゃ、じゃぁ消しゴム代・・・!」
「いいって、だってそれ使いかけだし」

ね?ってササヤンくんの猫みたいな目がきゅってなる。
それは私がいつも見ている彼と全く一緒で。

「ササヤンくんってやっぱり特別な人だね」
「え?なにそれどういう意味?」
「神様とか、そんな感じ」
「・・・意味わかんねー」
「ふふ、優しくしてくれてありがとう」
「・・・どーいたしまして」



(こんな私にまで、優しい)


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