白龍皇子様は本当に優しい御人なのだ。
だって私のような小娘にも本当に良くしてくださるのだ。

「皇子様」
「なんだ」

不躾にもノックなどせずに部屋へと飛び込んだ私を窘める事無く迎え入れ、そうして私が横に着くのを許してくださる。これが紅玉姫様の隣であろうものならば口喧しい夏黄文さんがガミガミと終わらない説教を垂れることだろう。それは聊か想像にしても嫌なものがあると一瞬眉を顰めた私に白龍皇子様は、「リコ?」と名前を呼んでくださった。
嗚呼いけない、私ったら!
気を取り直した私が、ずずい、と白龍皇子様の目の前に差し出したのは、鮮やかな紙で折った小さな鶴。それを見た白龍皇子様は少しだけ苦笑いして、そうして仰る。

「青舜の目を盗みましたね」
「ですが、本日の勉学はきちんと終えました」
「本当ですか?」
「はい、本日は気孔について学んだ次第であります」

なんならばお聞かせいたしましょう!と意気込む私を軽く制して、白龍皇子様は私の手のひらからひょいと鶴を持ち上げ、そうしてご自分の手に乗せてよくよく観察なさって、そうして「リコ」と今一度私の名前を呼んだ。

「良く折れていますね」
「自信作です」
「そして、この淡い青色の紙がとても綺麗だ」

それは青舜様が広げた侭にしていた数ある紙の束の中にあったもの。
余りにも目を奪われていたのか、青舜様が珍しく私にと苦笑いをしながら差し出してくれたものだった。勉学が早めに終われば自由に遊んでも良いと、そう仰られたので私は大人しく苦手ながら机に向かい、いつになく真摯に取り組む。そうして何とか本日の分を終え、青舜様が席を立つ前にそれを取り出して、一つ一つ丁寧に織り込んだのだ。

「どうしてこの色で鶴を折ったのです?」

そう問いかける白龍皇子様の色の違う目が私の目と重なる。
余りにも色が違いすぎて神々しさすら感じてしまうその目を真っ直ぐに捉えながら私は口を動かす。
淡い青色から目が離せなかった理由と、鶴を折った理由。

「白龍皇子様の願いが叶います様にと、白龍皇子様に似た色の鶴に願ったのです」

その願いが一体どのような正体であるかなど、小娘である私は知る由もない。
しかし近頃の白龍皇子様の様子を見ると何かしらの願いを叶える為に腹に括ったのは見て取れた。
その辺が甘いのだと青舜様は仰っていたけれど、さすがにその願いが如何なるものかは誰も知らなかった。
けれど白龍皇子様の事、きっと世のためとなる素晴らしい願いに違いないと私は考える。何故ならば白龍皇子様はとてもとてもお優しいのだから。
ただ、そう言い切った私の頭をくしゃりと撫でる白龍皇子様の瞳はぐらりと大きく揺れていたのが少しばかり気に掛かった。

「皇子様?」
「リコ」
「何でしょうか?」
「貴女はもう少し大きくなったら此処を出て行きなさい」
「それは、理由があるのでしょうか」
「ええ、とても大きな理由です」
「けれど此処には白龍皇子様が居られます。それに青舜様や白瑛姫様も然り」

それなのに私一人でなど到底行ける筈がないと、白龍皇子様の顔を仰ぐように見上げる、白龍皇子様は真っ直ぐに私を見つめて、そうして余りにも真摯な声で仰るのだ。

「せめて何も知らない貴女だけはどうか白のままであって欲しいのだ」

嗚呼、本当に白龍皇子様は優しい御人だ。
こんな何も知らない小娘にも優しくしてくれるのだ。
だがしかし私は、その痛いほどの優しさを知る程の知恵や勘の良さ、それらを包み込む程の器量を、この時はまだ身に付けていなかったのだった。



(ただ、私に込める熱だけは非常に熱かった)


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