青く輝く月が大きくて眩しい晩。本来ならば華やぐ夜酒の席。
それなのに一体どうして、こんな羽目になってしまうのか私は毎度毎度不思議でしょうがないのだ。

「どうして私の思い通りにならないんだ」
「それは貴方がクズだからよ」
「全く、皆分かってないんだ。私の素晴らしさに」
「あら、バカさ加減には気付いてらしてよ」

ガン、と強く杯を机に叩き付ける夏黄文は、ギラリとした目を私に向ける。
それはまるで肉食獣の様に見えるけれど、本当のところはただ酒に飲まれてふやけきっている猫に過ぎない。嗚呼全く可哀想に!主に頭が!と哀れみの目を向ける私に気付いてか、夏黄文のギラリとした目は、ついと反らされる。
そうしてまだ酒の残っている杯に恨みがましく向けられるのだ。

「結局私に優しいのは姫君だけだ」
「あれ程利用しようとしておいて良く言うわ」

姫君、姫君。困った時だけほいほいと口に出る名前に少し辟易とする。全く夏黄文と言う男は、本当にどこまでも狡い奴だ。なんて、そう思いながら私は彼が握って離そうとしない杯に指をかけ、何とか引き剥がす。

「何をする」
「貴方だけ狡いのよ」
「私の酒だぞ」
「じゃぁ私にも貰う権利はあるわ」

意味がわからない、と言う男は、これ見よがしに溜息を吐いて月を仰ぐ。
曰く、哀愁に浸っているのだ、と前に聞いたのを思い出した。
思い出して私はその哀愁に浸っている男の横顔を見て、そうして目を伏せる。
月が余りにも眩しくて、目が開けてられないわ。
なんて。
喉元を過ぎて胃に落ちていく酒が熱くて、思わず顔を顰めた時、男が私を呼んだ。

「なあ、おい」
「おいじゃ分からないわ」
「リコ」
「何よ」

不意に、伸ばされた手にギクリとする。ドキリ、ではない。ギクリ、だ。
何故ならばふやけきっていた猫の目がギラリと光ったからだ。
今日は夜酒。月は満月。これが夢物語だとすれば、目の前の男は虎にでも変わるだろうか。
そうしてひゅっと息を呑んだ私を余所に、妙にしたり顔な男は私が飲み残した杯を再び取り返して煽る。

「お前だけ狡いんだよ」

酒の所為だ。安い、夏黄文が買った変な酒の所為だ。
全く困るのだ!これだから本当に困るのだ!狡い男は!
私が妙に落ち着かないのは一瞬呼吸が乱れたからで、決して!断じて!万が一にもあるわけ無くて!

「出世街道断ち切ってやろうかしら」
「何だ急に物騒な女だなお前は」
「煩いわね、良いから酒寄越しなさいよ」


半ば無理矢理煽った酒はそれはそれは安くて不味くて、全くとんでもないものだった。



(だが性懲りもなく、次の夜酒の席が楽しみで!)


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