「ジャンくんはミカサちゃんばっかり」
「またまたリコはそうやって夢見がちな事ばっかり」
「だってサシャ、酷い話じゃない?」
「そりゃそうですけど、でも、あのジャンですよ!」

正気を保って!なんて言われて結局丸め込まれるけど、私が好きなのはどう足掻いたってジャンくんなのだ。ごめんねサシャ。



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「ねぇねぇジャンくん」
「何だよ」
「どうやったら上手くうなじを抉れるの?」
「何だよ、またやらかしたのかリコ」
「そう、だから明日追試なの」

だから助けて、なんて口実を作って私は事ある毎にジャンくんに頼る。
女の子はちょっと出来の悪いくらいが可愛いもんだよって、この間会ったナナバさんが言ってたのを思い出しながら話しかける。ああ、でも追試レベルはちょっと出来が悪いとか言う問題じゃないのだろうか、なんて思っていたら「おい」ってジャンくんが私を呼ぶ声がして、慌てて意識を戻す。なんて勿体無いことを!と思いながら、私は素直に「ごめんね」なんて謝って、そうして明日の晩御飯の魚のフライをジャンくんにあげることで合意して、人気の無くなった鍛練場へと2人きりで足を運ぶ。

そうして始まるジャンくん先生の巨人討伐授業。今日の議題はうなじの抉り方。
より深く広く残虐に抉る方法を真剣に教えてくれるジャンくんの顔は時折思い切り悪人面だが、それも許せるのはきっと私が彼をとんでもなく好きだからだろう。
あれやこれや、なんて思った以上に懇切丁寧に教えてくれるんで、リアルに想像が出来て若干気持ち悪くなる。
巨人はまだ見たこと無いけど、教本の挿絵や噂なんかで恐ろしさは学んでいる。
とはいえ、私の想像なんか本物に比べたらきっとどうせ大したことは無いんだろうけど、だけど、でも、ちょっと、あんまりにも。

「・・・ジャンくん」
「どうした、リコ」
「ごめん、ちょっと」

う、と込み上げて来るものを無理やり飲み込む。
ちょっと涙目になってしまった私を見て、ジャンくんは漸く気付いたのか、「悪ぃ!」なんて大慌てで私の様子を伺う。
気持ち悪いけど、ちょっと幸せ。なんてとんでもなく複雑な感情で私がへらりと笑ったら、ジャンくんは申し訳なさそうに、休憩の提案をしてくれた。

ごくり、とジャンくんがくれた水を大切に喉に流していると、少し落ち着いたジャンくんが、「今日さ」なんてお話を始めてくれたので、私は「何?」なんて耳を傾けた。
だけどその話が私にとってとても楽しいもので、素晴らしいものかどうかっていったら、それはまた別の話。

ミカサがさ、から始まる話。結局はエレンがよ、で終わるんだけど。
その話を始めると決まってジャンくんの顔はころころと変わる。たぶん本人は全く気付いていないんだけど、見ているこっちからはどんな感情を持って話しているかって言うのが実は丸わかりだ。今だってとんでもなく嬉しそうにミカサちゃんの話をする。
私だって別にミカサちゃんが嫌いなわけじゃない。強いし格好いいし素敵だ。おまけに思ったより優しいし、髪の毛だってツヤツヤしてとっても綺麗。
だけど、だからといって、私がずっと無条件に嬉しそうにミカサちゃんの話をするジャンくんが見れるかって言ったら、それはそれ。これはこれ。
「それでよ」「そんでさ」「でな」なんてよくもまぁ飽きもせずにそんなに大したことじゃない事が語れるもんだ、なんてちょっと卑屈な思考になってきた所で、私はジャンくんに声を掛ける。

「あのさ」
「あ?」
「続き、しよう?」

そうすると、ジャンくんはさっきまでの夢見心地の表情をガラリと変えて、あっさりとミカサちゃんを捨てて私を見る。私はそれがたまらなく嬉しい、なんて前サシャに言ったら、サシャが私を思い切り抱きしめて「私が男ならリコを泣かせなかったのに!ジャンちくしょう死ね!」とか何とか言って慰めてくれた事がある。(まぁ、気持ちだけで結構って断ったけど)

でもでも、嬉しいのは本当。

だって、ジャンくんの目は目の前の硬質スチールに釘付けで、こっそりチラチラ盗み見ている私の視線には気付かない。けど、ジャンくんの手は私のすぐ傍でグリップの握り方が甘いだとか、どうとかで、多分あとちょっとすれば触れ合う距離。
それに私の大好きな声が、いちいち確認を取る度に「リコ」って私の名前を呼ぶの。
たったそれだけだけど、それがたまらなく嬉しくて思わずにやけた私に、ジャンくんが気付いて「何笑ってんだよ」って軽く頭を叩かれる。

あのジャンですよ!ってサシャは言ってたけど、やっぱり私にとってジャンくんは今ある姿が全てなので、「あのジャン」っていう姿には目を瞑っておこうと思った。



(恋は盲目、先人の言葉に偽りなし)


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