きらきらと金色に輝くルフが手に持っている水晶の中でぐるぐると回って色を変える。
それは赤色だったり白色だったり。たまに青色だったり。
そうしてぽろりと水晶の中から零れ落ちたルフの色で私は今日も占うのだ。
雨がいつ降るとか、家を建てるならいつだとか。今日や明日の運勢だとか。

柳の傍はいつもと同じだった。煌帝国の空はうっすらと雲が蔓延り、燦々と降り注ぐ太陽の光をぼんやりと拡散させる。そうして少しだけ湿った風が辺り一面に吹き抜け、池に泳ぐ魚が跳ねた。
けど、柳の下はいつもとは違う。何が違うかと言うと、とにかくいつもよりも違う。
何と言えばいいのか、よくはわからないけれども、至極華やかなのだ。

「貴女っていい人ねぇ」

感嘆の世辞を漏らしつつ口を開けて言うのは紅玉姫様だった。
普段なら早々接することは無いのだが、今日は違う。目と鼻の先、といった距離で紅玉姫様は手を叩いて笑っていた。
きっかけは単純。
いつもの様に私のお気に入りの場所であるこの柳の下で油を売っていた黄文様を紅玉姫様が探しに来たこと。そして、その時たまたま私が黄文様を占っていたことがすべての始まり。
曰く、「占いは大好き!」らしい。
水晶の中に入り込むルフみたいにきらきらとした目で覗き込む紅玉姫様は、何の警戒もなしに私の目の前に座り込んで、そうして「私も占って頂戴」と口にしたのだ。
そうして私が畏れ多くも、いつもと同じように、紙と水晶を使って占いをする姿と出た結果にどうやら大変満足して、あれやこれやと話題を出しては私に占わせるのだった。

もう一通りは占い尽くしたのではないだろうか、とそろそろ紅玉姫様のお願いに困惑し掛かった私を見てか、側にいた黄文が漸く腰を上げる。
「姫君、流石にリコが参っております」なんて助け舟を出されて、一間。「貴女リコって言うのね」と紅玉姫様は目を細めて笑って、そうして次から次へと今度は占いの代わりに質問をされるのだった。

名前から誕生日、出身地から何故占いを始めたのか。
ここに来て誰一人として話していなかった様な些細な事を「教えて」とねだる紅玉姫様に誘われてぽつぽつと話し始めると、うんうんと頷く紅玉姫様との距離は一足飛びに近くなったように感じていた時、紅玉姫様が首を傾げながら私に聞いた。

「相性占いはしないの?」

恐らく経過を辿っていけば自然に出る疑問だった。これには、今まで興味なさそうに話を流していた黄文様も、そういえば、なんて顔をして私を見ていたので、私は少し苦笑いをする。そうして別に隠していた訳でもないのですが、と前置きをして私は口に出した。

「怖いのです」
「怖い?」
「人間って恋が入ると周りが見えないでしょう?」
「確かに、そうねぇ。そう言う事もあるけれど、それが貴女が占いをしない理由には繋がらなくってよ?」
「ええ、存じております。姫様、ここで1つ昔話をしても?」
「いいわ」

にっこりと笑うでもなく、話の流れで必要と判断した紅玉姫様はあっさりと許可を出すので、私も少しだけ安心して、「気持ちの良い話ではないのですが」と口に乗せた。



相性占いをして、村で評判の娘にせがまれた事があった。
その頃、私は自分の占いがどこまで通用するか試したい事もあり、二つ返事で了承し、そうして水晶とルフが導き出した答えを何の前置きも無く普段通りに口にした。
その時少しの違和感に気付ければまだ何か弁明が出来たのかもしれないが、何分私には、まだそこまで人に気を遣う余裕などなかった。(というより、子供だったのだ。)そうして占いの結果を聞いた彼女が「お屋敷町の彼は」と更に聞いてきたので、先程と同じように占い、彼女に告げた。「髪の長い貴女の友達と良縁になる」と。

「あとは何と言うか、血祭と言うか」
「・・・貴女も散々ねぇ」
「ですのでそれ以来、相性占いは・・・」
「まぁ、そう言う事なら仕方ないわ」

少し残念だけれど、と、項垂れる紅玉姫様に声を掛けようと口を開いた時、先程までの空気とは一転、ぱっと。それこそまさに紅玉の様に目を輝かせた紅玉姫様が私を見て、そうして明るい声で言った。

「なら、リコ。貴女好い人は居ないの?」
「ひ、姫君?!一体何を!!」
「何よ、夏黄文。良いじゃない聞くくらい」
「しかし!余りにも唐突過ぎやしませんか!!」

途端、ぎゃんぎゃんとまるで犬が吠えるみたいに声を上げた黄文様を他所に、紅玉姫様は真っ直ぐに私を見て楽しそうに尋ねる。
質問の意図がさっぱりわからないけれど、流石に痛いくらいに真っ直ぐ私を見られたら言葉を濁す、なんて出来ないだろう。私は右に左に視線を泳がせ、そうして思い当たった人物を思い浮かべながら、「私は」と口にした。

それは聡明で明確な意思を秘めている方。
分け隔てなく、真摯に接してくれる方。
いつも細かいところまで気配りをしてくれる方。

「白龍皇子様が好ましいです」
「まぁ!そうなの?!」
「ええ、敢えて言うなればですけど」
「ですって!聞いた?夏黄文!!」
「・・・ええ、厭々」

日頃ならあり得ない程に色めき立った柳の下で、黄色い声を上げはしゃぐ紅玉姫様と途端に勢いの無くなる黄文様を交互に見ていたら、持っていた水晶からぽろりとルフがはみ出して、そうして風に乗って飛んでいく。人知れずそれを見送ると、ぱちり、と何か言いたげな顔をした黄文様と目が合ったので、何か、と問おうとしたその時、いやに棘を含んだ声で黄文様は私に言ったのだ。

「身の程知らずも甚だしいぞ」
「な、」
「こら、夏黄文!貴方何を言って」
「姫君、私は用事を思い出しましたので」
「あ、ちょ、ちょっと夏黄文!!」

待ちなさい!と一際大きな紅玉姫様の言葉が届かなかったのか、聞かなかったのか、慌てて立ち上がる紅玉姫様と相変わらず座ったままの私を他所に黄文様はそのまま城内へと消えて行ったのだった。


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