雲1つ無いシンドリアの空は島の周りを囲っている海と同じ深い青色で、干し立てのシーツを取り込むとそのコントラストに思わず目が眩みそうになる。
ぽかぽかと両手に収めたシーツの熱がじわじわと肌に伝わる。さらにぎゅっと抱きしめる事で、洗い立ての爽やかな匂いがふんわりと鼻をくすぐる。嗚呼!このまま広場の芝生の上でお昼寝をしたらどれ程キモチガイイのだろうか!なんて少しやましいことを思い浮かべながら、その乾いたシーツをリネン室へと運ぶために足を動かしたその時。

「おねえさん、ちょっといいかい?」

まるで小鳥みたいに可愛らしい声と、振り返り姿を捉えた目に映る鮮やかな、それこそ今日の空や海のように青い髪色が目に入って、私は思わず笑みを零した。






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「これでいいかい?」
「うん、ありがとう」

リネン室にシーツを仕舞い込み扉を閉める。
そうしてそのままの足取りで広くて長い廊下を2人で歩くとコツコツと追いかけるようにしていつもよりも多い足音が大理石の床を叩き、談笑する声は高い天井に反響する。
就業時間だし、ちょっとやかましいかな?とは思うけれど、ほんのたまには賑やかに歩いてもいいだろうと、そのままの足取りでドンドンと見慣れた方向へと足を進めた。
壁に掛かる絵画、綺麗な石膏で象られた像。キラキラと光を放つ(正直何かよくわからない)物。
ソレらを横目に流しながら、ぐんぐんと柔らかな風を切って進む。
時折、何人かの魔導士様達とすれ違ったが、誰も彼もいつもより丁寧に頭を下げるのは、私の隣を無邪気に歩く少年がいるからだろう。
ついにこの国にも「マギ」様が来たの!なんてヤムライハ様がとても興奮して話しておられるのを耳にしたのは数日前。そうしてややあって彼の「マギ」様がヤムライハ様の弟子になったと聞いてとても驚愕したのは一昨日(あの「マギ」様すらをも弟子にしてしまうヤムライハ様凄い!)。どの様な方だと馳せていたら、蓋を開けてびっくり。まさかこんなに可愛らしい少年だったなんて!と思ったのは十数分前。今ではこんなにも親しげに話が出来るまでになっていて、思わずふふん!いいだろう!なんて擦れ違い様に魔導士様に自慢したくなる(けどしないんだ)。なんて浅はかな事をちょっと考えながら角を曲がると、黒秤塔の各部屋の扉がずらりと並ぶ廊下へと辿り着いた。
研究室や会議室、講義室に倉庫など一介に揃ったその廊下は初めて見ると圧巻で。横目で見遣るとアラジンくんも大きな口をぽかんと開けていた。

「さて、アラジンくんはどちらへ」
「うーん、よくわからないんだ」
「わからない?」
「ヤムさん、詳しくは教えてくれなかったからさ」

そう笑うアラジンくんを見て、ふむ、と考える。
ヤムライハ様は時に大雑把な時があり、私達への指示も、「こう、ばばーっと!」とか「そこをぐいぐいーって!」なんて擬音語で表現される事がある。慣れてしまった私達ならともかく、出会って間もない彼には余り理解の出来ない事だったのだろうと結論付け、私は答えを出す。

「ではヤムライハ様の所へ向かいましょう」

そうすれば万事解決です!今ならきっと3階の小会議室の斜め向かいの部屋で読書されていると思います!あ、お茶も一緒にご用意しましょう!本日はシンドリア産の果物をふんだんに使ったお菓子もあるんです!
それと天気も良いですし、そちらのお部屋の窓も開けちゃいましょう!空気の入れ換えも出来て一石二鳥です!!と提案するとアラジンくんはキラキラとした大きな目をパチパチと瞬きした後、にっこりと微笑んでくださった。
偉大なる「マギ」様が可愛すぎて辛い!とばれないように身悶える私に、アラジンくんは、言葉を掛ける。

「おねえさんは、本当にいい人だねぇ」
「いいえ、滅相もない!」
「それに・・・ふふ、聞いていた通りだ」
「ぇ?」

聞いていた、と言う言葉に違和感を覚えつつ、アラジンくんを見遣ると、アラジン君の海の底みたいに深く青く澄んだ瞳の奥がこちらを向く。なんだか全部見透かされているんじゃないかと思うその眼差しに、どきっと心臓が跳ねた。

「おねえさん、リコさんって言うんでしょう?」
「あれ?私、名前・・・」
「うん、聞いてないけど僕は知ってるよ」

凄いでしょう?と唇が動くのを見て、思わずゴクリと息を飲み込んだ。
その時、強い風でも吹いたのだろう。雲が太陽を隠し、あまり日の当たらない廊下がより一層暗く翳った。
けどそれはほんの一瞬。次の瞬間にはいつも通りのシンドリアの明るい太陽が戻り、廊下は色を付ける。
さらにアラジンくんが、ぷ、と吹き出し、そうしてお腹を抱える。

「ふふふ、そんなに怖がらないでおくれよ」
「ぇ、ぁ、え?」
「ごめんよ。リコさん」

ちょっとからかってみただけだよ、なんてアラジンくんは一頻り笑った後、息を整え、すっと可愛らしい手で私を指し示す。そうして、その髪飾りだよ、と言った。

「バルバッドでジャーファルおにいさんがその髪飾りを買っているのを見たんだ」
「ジャー、ファル様が?」
「うん。それで誰にあげるんだいって聞いたら、教えてくれたんだ」



――リコという、気立ての良い素敵な子へ。



どっきん!と心臓が跳ねたのは羞恥なのかそれとも!
アラジンくんが言った言葉なのに、頭の中でジャーファル様の声へと変換されたその言葉がグルグルと体中を巡る。そうして血液がグングンと体温を押し上げ思わず頬が赤くなって、頭の中がフワフワとする。
そうして今日はこんなに暑かったっけ、と視線を泳がせても映るのはシンドリアの青い空ばかりで、外気温を測るものなど一切見当たらない上に、そもそも別にそんな事が今更気になったところでどうしようもないじゃないか!それにさっきまで別段暑いだのと思うことは無くて、では、じゃぁ、何故こんな急に熱に浮かされたようにアツイのだろうか!と思わず両手で顔を冷ますように押さえたら、アラジンくんが不思議そうな目をこちらに向けて言うのだ。



(リコさんの周りのルフの色が急に桃色に!)


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