乙女刑事純情派
カラーダイヤだけを狙う、そんな怪盗が最近巷を騒がせていた。
そんな中捜査担当になったことがきっかけで偶然対峙した結果、スルリと鮮やかに交わされてしまい刑事としてのプライドを踏みにじられた…筈だった。
「私の勝ちですね、刑事サン。またお会いしましょう?」
闇夜に溶けたその姿に、奪われたブルーダイヤなんかよりもよっぽど興味を引かれたのは偶然ではなく必然で。
黒い艶やかな黒髪がひらひらと風に靡く様子だとか、サングラスに隠れてはいるけれど時折見える切れ長の全てを見透かすような瞳。
「う、奪われた……!」
思わずガッツポーズを取って軽やかに消え去るファントムにナルトが頬を赤らめたのを確認したサクラが、なにを奪われたのかを悟り頭を抱えるのだった。




「ナルトさーん、居るんっスかー?痴漢捕まえたんですけどー」
「またお前かってばよ。フェミニスト学生」
「うっせ。うちの家訓馬鹿にするんじゃねぇよ」
駅から程近い警察署。
そこの所轄にでっぷりと太ったオッサンを後ろ手で拘束しながら現れたのは学生服に身を包み髪を後ろで一つに引っ詰めた少年、奈良シカマル高校一年。
そんなシカマルに呼ばれたのはカップラーメンを啜る木ノ葉警察署刑事のうずまきナルト、現在22歳。
手慣れた動作でオッサンを同じ所轄のサクラに引き渡したシカマルはどっかりと椅子に座りこみ紙とペンを手に取った。
俗に言う、被害報告書。
シカマルが痴漢を捕まえてココに連れて来るのはもはや恒例になっているので他の刑事もなにも言わない。
むしろナルトが書くよりよっぽど分かりやすいと人気である。
「お前いつか闇討ちに会うんじゃねぇの?環状線の黒い悪魔って呼ばれてんだぜ、お前」
「かっけー。誰だよそれ付けたの、ダチに自慢出来そうだなー」
「……お前ホントやな性格してるよな。ファントムを見習えってばよ」
はぁ、と報告書を書くシカマルにラーメンのツユまで全部飲んだナルトが横に腰掛けながら溜め息混じりに言った。
それにシカマルは報告書を書いていた手を止めて、横のナルトを見る。
「ファントムって、あの泥棒のファントムか?」
「泥棒違う!怪盗と言え!!」
「いや、一緒だろ。めんどくせぇな」
なにをこだわってる、と言うように見るシカマルにナルトは力いっぱい力説すると目を爛々と輝かせどこから取り出したのかファントムの横顔が写し出された写真を取り出して突き付けた。
サングラスで目は見えないが、うっすらと笑みを作っているファントム。
突き付けられたシカマルがガタッと後ろに椅子の車輪を転がして下がった。
それはそうだろう……自分の写真を急に突き付けられて、しかも犯罪中の顔をだ、見せられて平静としていられるやつが居たら見てみたい。
「そ、それは?」
「この前会った時に広報課が撮った奴をちょろまかしてきたんだってばよ。良く撮れてるだろー!カッコイイー!!」
なんかサラっと怖いこと言われた。
てかカッコイイってなんだとシカマルが知らず引き攣った頬を手で隠していると、事情聴取などをする方に痴漢を引き渡してきたらしいサクラがぽん…と後ろからシカマルの肩を叩く。
ハッと後ろを振り向いたシカマルに、呆れ顔のサクラが仕方なさそうに立っていた。
「サクラさん?」
「シカマル駄目よ。今のコイツにファントムの話し振ったら家に帰れないわよ」
「ど、どーいう?」
「ぞっこんなの。一目惚れだって、もう馬鹿みたいに乙女街道一直線」
やんなっちゃう、と言って机から茶菓子を取り出しシカマルに手渡したサクラにへぇそうなんだーと生返事を返す。
ちらっと視線をナルトに向けると、やっぱりまだ頬を赤らめて自分の写真を見ていた。
「(なにこの状況。なにこれオイめんどくせぇことになってんじゃねぇかァアア!)」
惚れられたって、知るかそんなもんな感じである。
「ま、そう言う訳でアイツ今ファントム捕まえようと躍起になってんのよねー。所轄の仕事しろってのよ」
「そっスかー」
意外性No.1のやる気出させちゃったのかー。
なんて。
警察関係者の情報はあらかた入手しているシカマルにとって実はナルトはかなり要注意人物だと認識している。
だからこそ一々めんどくさい痴漢捕縛なんてやりながら交友を深め、少しでも疑われる要素を減らそうとわざわざ接触までしていると言うのに、予定外も良いところ…むしろ状況悪化じゃないのかコレ。
「めんどくせぇ…なぁ」
これからどうしてくれよう、もうこんなこと止めようかな…とか思わないでもないが、けれど泥棒(ナルトいわく怪盗)をやめる訳にはいかない。
だって、これは全て母からの命令なのだから。
シカマルが盗んでいるカラーダイヤはもともと奈良家の家宝だったのだ。しかし叔父にあたる男が勝手に持ち出し売りさばいたため取り戻さなくてはならなくなった。しかもちょっと訳ありの宝石だから色々とこう…呪い的なものがあるからヤバイ。
「こんなことなら声なんてかけるんじゃなかった…」
「シカマル?どうしたのよ」
「いえ、なんでも」
「はうぅ〜、早くファントム捕まえるってばよー!!」
さて、ナルトの思いがシカマルに届く日は来るのか…むしろいつシカマルの正体がばれるのか。
「ファントム、今日こそ俺のハートを奪ったお前を捕まえちゃうってばよ!」
「私はそんなもの盗った覚えはありませんからぁぁあああ!」


(逮捕しちゃうぞ!)
END