乙女刑事純情派2 「ピンクが見付かったわ!」 「お母様、風呂に乱入してくるのだけはやめてください」 ガララッ、と勢い良く開かれた浴室の扉の中、今まさに上がろうと浴槽に手をかけていたシカマルはおもいっきりうなだれた。 一応お年頃で真っ裸の息子が入っていると分かっている風呂に何故、何故堂々と乱入してくるのかと。 「自分の子供の裸なんて見飽きてるわよ」 風呂場で踏ん反り返る母の存在に、シカマルは今にも泣き出しそうだった。 「いやいや、ホント、母ちゃんがどうかじゃなくて俺が嫌なんだって」 「あら、あんたも成長してんのねぇ。イロイロと」 「出てってお願いッッッ!」 なんで俺の周りって常識の通用する人間の方が少ないんだろうと思ったり。 とりあえず大事な息子さんを母にガン見されたのは頂けない。 引きこもりになりそうだと壁に手をついて般若心経を唱えて取り戻せ平常心と、結局シカマルはそれから三十分間ひたすら良く動く頭から自分を慰める言葉を拾い上げて奮起するのだった…。 「それで、ピンクダイヤが見付かったって?」 風呂で何とか持ち直したシカマルはがしがしとタオルで頭をふきながらテーブルで優雅に紅茶を飲んでいるヨシノとガチャガチャとパソコンを叩いているシカクに近寄り、自身も椅子に座り用意されていたクッキーをかじる。 ヨシノはシカマルの台詞にそうなのよーと何処からか新聞を取り出しバッ!と広げてみせた。 新聞にはカラーの両面刷りででかでかと『秘宝、ピンクダイヤのティアラ日本初公開』と書かれたそこには、中央に大きなピンクダイヤと周囲に真珠のはめ込まれた銀のティアラ。 「はー…これは、また」 悪趣味な。 とはシカマルの弁である。 ごてごてに装飾されたティアラはきっと頭に乗せたら肩凝りになってしまいそうだし、やたらとぎらつく装飾は成り金趣味丸だしだった。 質素とシンプルを好むシカマルからすれば見ているだけで目がチカチカする。 「綺麗でしょー」 「いや、全然」 「…夢が無いわ。あんた、それはだめよ」 「知るかよ。で、今度はそれ盗めって?めんどくせーな」 こんなに大きく宣伝するくらいだ、余程警備も厳しいのだろう。しかもカラーダイヤとなればシカマル、ファントムが動くのは目に見えている。 「まぁそう言うなよ。ほら、屋敷の見取り図出たぞ」 「…どーも」 あからさまに嫌そうな顔をするシカマルに今までパソコンに向かっていたシカクがプリンターから紙を取りシカマルに突き付ける。 今回ティアラは日本の財閥の文化遺産でもある西洋風のレトロ式煉瓦屋敷で公開が行われるらしい。 「古いな。熱探知は入ってねぇだろ」 「ああ。赤外線センサーと暗視用監視カメラ、それと定期巡回だな」 ぴらぴらと渡された紙を捲りながら建築様式と間取りを確認してシカマルが呟けば、パソコンの電源を切ったシカクが紅茶を飲みながら赤いペンで丸をつけていく。 そこでヨシノがん?と頭にハテナを浮かべた。 「あら、なんで熱探入って無いのよ」 「暑いから」 普通、こう言った金持ちの屋敷には警備用の制御室があり、そこでパネルに赤外線、暗視カメラ、そして熱探知機、つまりサーモセンサーで防犯管理がされている。 しかし古い建物は、しかも煉瓦作りとなれば耐熱性に優れている訳で、夏場になると煉瓦や石自体が熱を持ち人間の体温との差がなくなってしまうのだ。 空調を入れるにも、文化遺産クラスになると壁に穴を開けるにも色々手続きが必要になる。 だから良く文化遺産等で修繕が行われるのは、基本的な要因の除去の為の改築が出来ないから事(例えば屋根が腐るなど)が起こったあと等に修繕と言う形をとるのだ。 プラスチックで密閉加工も、床や外壁を引っぺがして除湿材を打ち込むこともできない。 「熱探知はリスクも高いしな。古い建物は隙間風も酷ぇし、下手に手を入れたら基礎を傷つけるかもしれねぇ。だから古い建物には入れないんだ」 「…シカマル……あんた、泥棒っぽくなって…」 「誰のせいだよ」 赤でチェックのついた部分を頭に叩き込みながらヨシノに答えたシカマルは、思わず紙を握り潰してしまいそうになった。 そもそも平々凡々にのんびり暮らして居たかったのに何の因果か世間を騒がす泥棒(ナルト流に言うなら怪盗)だ。 自分が生まれる前に家宝を盗んで売っ払った揚げ句消え失せた見たことも無い叔父とやらを怨んでも怨みきれない。 ちなみに今までもこう、何個か家宝のカラーダイヤを盗んだりオークションで競り落としたりはしていた。 話題にならなかった理由は、それはちょっと表の方で対処するには危ないアッチ系の、俗に言う闇組織云々と言う……そのせいか、シカクの顔には大きな傷痕が残っている。 奈良は表向きは大手薬品メーカー。裏は清く正しいジャパニーズマフィアの取締役と言うやつだ。 一応上記したように清く正しくをモットーに麻薬とかちょっとアレっぽいものの売買を取り締まり、裏の世界の人間が表の世界に出ないよう管理している。 まぁ今はそんなこと関係無い。 つまりは、裏の世界で捌かれたのは取り戻せたが表の世界に流れた分が取り戻せないというわけで。 じゃあ盗むしかないじゃんって事で奈良時期当主、十代目候補のシカマルにお鉢が回ってきた。ヨシノによって。 「侵入経路は…あー、地下に水管か。そっから入ればセキュリティ引っ掛からないな。あとは…親父、赤外線スコープ」 「あいよ」 だからか、この家のヒエラルキーのトップに立つヨシノに逆らえ無かったシカマルは幼い頃からの教育の賜物である身体能力と生まれ持った天才的な頭脳で今や世間を賑やかす怪盗ファントムと…このネーミングは勝手に新聞記事が付けたものだが、なってしまった。 「予告は出すんでしょー」 「まぁ、なぁ。木を隠すなら森の中だし?」 警察だろうがなんだろうが、人は大勢居てくれたほうがありがたい。 「あ、キューちゃん持ってくから、用意よろしく。俺はもう寝る」 「…キューちゃん使うのか…?つかまだ十時だぞ若者」 「相手は文化遺産だろ。キューちゃんが適役。あと俺は明日くそめんどくせぇが服装検査あるから早く行かないといけねぇんだよ」 くぁ、と欠伸して残った紅茶を飲み干したシカマルは歯を磨く為に洗面所へ向かう。 余談だが、シカマルはジャンケンに負けて現在風紀委員だったりするのであった。 END (はいはいやれば良いんだろ) [戻る]
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