絶対誰かに呪われてる!
今日も今日とて「お前らなんだその危ない信者的言動は」と授業中に自分に向けられて来る熱視線と訳の分からない発言の数々にぐったりとしながら教鞭を取るシカマルは授業終了と共に教室を飛び出した。
そう、一分一秒でも惜しいと言わんばかりに三階からぽんっと身一つで。
「ああっ、カヅキ先生待ってくださいよ!」
「質問があるんですー!」
「自分で調べろ、それがお前らの為になる。めんどくせぇ」
らしい台詞を言ってさっさと職員室に戻って行く、飛び降りたシカマルを追うように窓に身を乗り出して帰って来てと叫ぶ生徒たち。
さながら最愛の恋人が去る間際の女のように、まだ変声期を迎えていない甲高い声がアカデミーに響いた。
シカマルは非常にめんどくさそうに髪を払い、つかつかと職員室への道を歩む。
途中、カヅキ先生がいるぞとその姿を一目見ようとわらわら集まって来たがそこは鶴の一声ならぬ鹿の一声。
「俺の行く先を邪魔する奴は、以後一切視線を合わせねぇ」
「お前ら、散れぇー!」
うぉおおっと、その瞬間集まっていた生徒は全て壁に張り付き、人の間に一本の道が綺麗に出来上がった。
「ささっ、カヅキ先生どうぞお進み下さい!」
「………お前ら、なぁ。俺はてめぇらの主人か。なんだこの待遇」
「はい!先生の為なら靴も舐める奴隷に成り下がることもいといません!」
「先生、その足で僕を踏んで下さい!」
「罵って!」
「……」
恋する少女が如く頬を華麗に染め上げ哀願するような視線すら向けてくる生徒らに、シカマルはぐりぐりと目を揉んでみせる。
もうマインドコントロールでもいい、なにか手をうたないとコイツらは人として駄目だ。個人的に。
そんなことを考えていると後ろからクスクスと楽しげな笑い声が響く。隠していないその気配にシカマルが盛大なため息を吐き出せばぽんっと肩に軽い衝撃。
「モッテモテだねー。妬けるー」
勿論シカマルにそんな事が出来るのはナルトだけ。
突然現れたナルトに生徒たちの熱が高まるが、先程シカマルに言われた台詞の効果か壁に張り付き道を作ったまま動こうとはしなかった。
素晴らしい精神力と団結力である。
「これがモテるとか、そう言う類のもんなら俺は世を儚む…って、お前、なに持ってんだ?」
額に手を当て唸りながら振り向くシカマル。
途端、視界に入って来る白陽の銀と、二つの黒。
ぷらーんと猫のように掴まれ宙づりになっている子供に眉が寄った。
「あー、日向とうちはの坊ちゃんたち」
「…なんで、そんなもん抱えてんだよ」
「こっちにも色々事情あんのよ。職員室言ってから話すさ」
ぷらぷらと更に高く持ち上げられ軽く揺すられたこの二人、確か物凄くプライドが高かったんじゃないかと一番下のクラスに通っている、サスケと同じクラスの影分身情報を反芻したシカマルは騒ぎ出すんじゃないかと思った。
が、しかし。
「カヅキ先生…こんにちは」
「こんにちは!」
「あ、おぉ」
騒ぎ出す所かなんかその辺にいっぱいいる、一度マインドコントロールが必要そうな生徒と同じ視線をしているではないか。
「コヨウ…てめぇなにを引っ掛けた…ッ」
「こっちが聞きたいよ…」
シカマルの引き攣ったような声に、珍しくナルトも顔を歪めながら弱々しい声を発するのであった。



「で、これはなんだ」
ギッ、と音を鳴らしながら椅子に深く腰掛け足を組むシカマル。
その前に座ったナルトは他の教師の机から椅子を引っ張って来てそこに二人を座らせるとキラキラした視線を向けてくる二人からさりげなく視線を反らしながら話し始めた。
「話すと長くなるんだけど」
「めんどくせぇから手短に要だけ言え」
「家庭教師になって欲しいんだって」
「全然長くねぇじゃねぇか」
「一度言ってみたかったんだよね」
てへっ、と自分の頭に拳を当てて舌を出すナルトに殺意が湧いた。
だがここは職員室。
暴れては駄目だと必死に自分を押さえ込んでシカマルはネジとサスケを見る。
身を前に乗り出して、期待に満ち満ちた表情で二人を見つめる姿に思わず鳥肌がたつ。
「あの、俺ずっとコヨウ先生とカヅキ先生のことを見てたんだ!家は名家だから金なら問題無い、先生、アカデミーなんてやめてうちに来てくれ!」
「黙れうちは。先生、俺は分家だが日向次期当主。うちに来てください」
「いや、あのなお前ら。俺らはあくまでアカデミー教師だってさっきから何回も」
「父上も二人なら是非にって言ってた!俺知ってる、兄さんが言ってたけど二人はアノ白陽と黒月なんだろ!」
「コラ、でかい声で言うな!」
サスケの発言にナルトが慌てて口を塞ぎシカマルが防音結界を瞬時に張り巡らせた。
ネジも知っているのか、いや、日向の分家連中は大概暗部に所属しているので知っていて当然と言えば当然。
しかし知らない人もいるのにわざわざ露見させられてはたまったものではない。
「お前ら、自重をしろ。子供だからと許されるとは限らないこともあるんだぞ」
流石に、ナルトもおちゃらけている場合ではないと暗部用の口調と雰囲気で二人に接するが…いかんせん、今の、ナルトとシカマルを崇拝気味な二人には効果は無く。むしろ逆効果だった。
「やはり俺が見込んだ人だ!兄さんも二人が来るなら喜んでくれるし、良いですよね!」
「うちはには掃いて捨てるほど人がいる。是非我が日向に!」
「おーい、お前ら俺の話しを聞けー」
「つーかイタチの野郎…折檻だな」
弟とは言え暗部の正体ばらしやがってとシカマルは舌打ちする。
ナルトはどうしようか?と目の前のシカマルにお伺いを立てるように見つめ、シカマルは仕方ないなと、きっと無理だと言っても勧誘をやめないだろう。
苦肉の策だが、これしかない。
「うちは、日向。俺は弱い奴は嫌いだ」
その台詞に、ぴくりと二人の動きが止まりシカマルを凝視する。
若干気圧されながらもシカマルは更に言葉を紡いだ。
「だから、猶予をやる。お前らが卒業するときルーキー最強と言われる下忍なら、少しは家庭教師も考えてやる」
これが、後にも先にも、シカマルが初めて己の行動を呪いナルトに馬鹿と言われる結果になったのは皆様もご周知のことだろう。
木ノ葉を担う二大名家のお坊ちゃん二人に目を付けられ追いかけ回された二人は、ネジが卒業した年に教員をやめ、姿を消したらしい。
その後血眼になって二人を捜すルーキー最強がいたことを記しておこう。


END
ぐ、ぐだぐだ過ぎる。
ひぃええ、すいませんあんまり追っかけてませんねorz
蒼乃玻璃様、リクエストありがとうございました!