それは晴れ舞台
※長編LITTLE設定
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「授業参観ですか?」
きょと、とボールに泡立て器を握ってカシャカシャと本日のおやつを作りながら首を傾げるシカマルにナルト、サスケ、サクラの三人はコクコクと首を激しく縦に振った。
「ふむ」
今やアカデミーに通うまでに成長した三人はそれなりに『見える』ように演技はしているものののびのびと暮らしている。そしてシカマルは旧家名家の護衛任務を預かり彼等の護衛…もっぱらアカデミーに通うシカマル自身は影分身なのだが(なんたってシカマルは多忙である)それらをつつがなくこなしつつ、三人を育てているシカマルは所謂彼等の保護者にあたる。
同い年の保護者と言うのも何だかなぁと思わないでも無いが片手で足りる頃から保護者をしているため今更と言えば今更だ。
「駄目、だってば?」
「黒兄さんに来て欲しいんだ」
「そりゃ、兄さんも同い年だけど」
ジッ…と上からナルト、サスケ、サクラの順で伺うように上目使いで見つめられて…断れる奴が居たら見てみたい。
しかもシカマルはこの三人を、そりゃぁもう超が付く位溺愛しているのだから断るなんてまずありえなかった。
しかし、先にも言ったようにシカマルは多忙で、最近新しく音の里とやらが出来てまた胡散臭いことをやらかしてくれて居るからわをかけて忙しい。
出来ない約束をするのは好まないし、何より三人を傷付けたくない。
シカマルは影分身を消して得た情報で参観日が一週間後にあることは知っている。それに日中のソレが実技科目で、出来るだけ保護者が必要なのも知っていた。
『とりあえず、あいつらを責っ付くか』
白い紙の巨塔を作っている己の部所と溜まりに溜まっている任務の山を思い浮かべて軽く溜め息を吐くと、ボールを置いてびくびくしている三人の頭を撫でてやった。
「そうですね。行きたいのですが、ただ今のままでは一日中は難しいんです」
「や、やっぱり無理?」
「んー、今日から一週間、参観日まで私がココに帰らなければ何とかなりますよ」
「「「うっ…」」」
「どうします?」
クスッ、と吃った三人に思わず笑ってしまいながら言えば、ぐるぐると悩んで居るのが手に取るように分かる。
今は三人が居る間、昼間と夜以外の朝と夕方は家に居るようにしているのだが、それを全て仕事に回せば一日と言わず三日位は休みが取れるだろう(ただし三代目には頼みと言う名の脅しが必要になるが)
あえてそれは言わずどうする?と聞くシカマルは、実は悩む三人を見るのが可愛いくて好きだから度々こうして意地悪をしてしまう。
「黒兄ちゃん、帰らないってば?」
「多分仮眠室で寝ますから」
「ご飯食べないの?」
「携帯食で。貴方たちのは影分身が作りますから心配はいりませんよ」
「一週間兄さんに会えないの?」
「ちょっと忙しいですから、多分缶詰でしょうね」
「「「うーっ、お仕事頑張って!」」」
声を揃え涙目で叫ぶように言う三人は、それでも参観日に来て欲しいらしい。
そんな様子を見ながらシカマルは可愛いなぁと笑みを浮かべるのだった。



そして参観日当日。
わらわらと集まる親を尻目に、一週間本体のシカマルに会えなかった三人はそわそわしながらシカマルが来るのを待っていた。
「なぁ、そんなにそわそわすんなよ」
「うるせーってば!シカは俺らの気持ち分かん無いのかよ!」
「いや、俺影分身だし」
明らかに落ち着きの無い三人に思わず影分身のシカマルが話しかければ思いっきり睨まれた。
何で影分身の俺がこんな目に…とうなだれつつ、早く来い本体!と念を飛ばしてみせる。
それから暫くしてだいたいの親が揃ったのを確認したイルカが、苛々している三人を見つけて苦笑を零した。横でぐったりしている影分身にご愁傷様と呟きつつ。
そんな事をしていると、不意に教室内にちりん、りりん、と涼しげな鈴の音が響いた。
「あぁ、少し遅れてしまいましたか」
次いで響く、スッと耳に馴染む声に教室内の者全てが視線を向けた先には普段着崩している着流しをきっちりと着込んだシカマルの姿。
足音を立てずに歩く様はまるでココに居るのに居ないような不思議な感覚に陥らせ、艶やかな黒髪が簪で止められている姿は優美であり、しかし足音の代わりのように響く鈴の音が確かな存在を作り出す。
一瞬でその場に居た奥様方がほぅっ…と熱っぽい息を吐いて、忍のお父様、奥様方が「黒月様が何故ここに!?」と膝を折りそうになった。
影分身は我が本体ながら…と額に手を当てて溜め息を一つ。
「黒兄ちゃん!」
ガバアッ、と。
そんな周囲の事など一切お構い無しに久しぶりに見たシカマルに向かって飛び掛かるナルトたち。
シカマルはそれを受け止めると三人の頭を撫でた。
「お待たせしてすみませんでした。今日は頑張って下さいね」
「おう!俺ってば頑張る!」
「俺も!」
「私だって頑張るんだから!」
「シカマルも、ですよ?」
「…分かってるよ」
ニコニコと抱き着く三人に一部「お前は誰だ!?」と豹変ぶりに目を見開くアカデミー生たち。
親たちは九尾のナルトの保護者が黒月だと知って冷や汗をかきだす。
それに気付いたシカマルが影分身も含め引き寄せると、にっこりと綺麗に笑って言い放った。
「はじめまして。私はこの子たちの保護者の黒月と申します。以後よろしくお願いしますね」
そう言って、更に笑みを深めるシカマルは暗にこいつらに手を出したら俺が殺すぞと目で語っている。
イルカはそれを見て、渇いた笑いを零すだけだった。
首ふり人形と化した大人たちを満足げに見た後、四人を送り出しシカマルもその後を追う。
「黒月、一週間働きっぱなしだった理由はコレだったのか?」
「えぇ。来て欲しいと頼まれたので」
「…お前は見られる側だろうが」
「奈良シカマルならあそこに居るでしょう?あれも私ですから問題はありませんよ。一粒で二度美味しいって奴です」
「それは違うと思うぞ」
移動の最中、端から見れば世間話しをしているように聞こえる会話に混じり隠語で話すイルカとシカマル。
さも楽しげに言い放つシカマルに深い溜め息を。
「可愛いでしょう。一週間働いた甲斐がある」
「で、明日から休みなんですか、隊長様」
「家族サービスですよ、副隊長殿」
クッ、と喉で笑いシカマルは手を振る三人の元へ足早に去っていく。
残されたイルカはそろそろ三代目に育毛剤をプレゼントするべきか考えていたり。
「黒兄ちゃん見ててってば!」
「あまり本気を出しては駄目ですよ。あぁコラ、サスケも!サクラは幻術使うのをやめなさい、コラ!」
こんな感じで怒涛の授業参観は進み、模擬試合でドベのナルトが一位だったりいつもつっけんどんなサスケが丸かったりサクラがやたらと高等な幻術を使ったりなどなど。
結局張り切り過ぎた為一部記憶を改訂する羽目にあったシカマルはそれからの授業参観にはシカマルとして参加するようになったそうだ。
ちなみに残った休暇の存在を知った三人が一週間シカマルに会えなかった反動か、べったりとくっついて離れなかったらしい。
シカマルに脅しを喰らい休暇を与えた三代目は水晶でそれを見ながらハンカチを噛んだそうだ。


END
授業参観してませんねすみませんごめんなさいorz