鏡合わせ
※長編の『LITTLE』設定です。
ナルトとシカマルの休日のお話。



久しぶりにもぎ取った休暇に、何をしたい?とナルトにたずねたシカマルは本当は少しだけ疲れていた。
けれど最近は任務が忙しくて、あまりナルトの相手をしていなかった(影分身に任せていた)ので何かナルトのしたい事をさせてあげようと提案すると、ナルトは愛用のぬいぐるみに抱き着いたまま顔を輝かせた。
「お出かけしたいってばよ!」
家の敷地内から殆ど出ることの無いナルトはそう言ってシカマルに抱き着く。
死の森の中から外は、まだナルトに取って良いとは言える環境では無いため興味は尽きない。
そうと決まればと、シカマルはナルトに変化をさせ、新しくナルトに似合うだろうと買ってきたフードつきの服を着せて街へと向かった。
「どこに行きたいですか?欲しい物があるなら買いますよ?」
「んー、えっと、新しいぬいぐるみ欲しいってば」
「あぁ、アレですか」
にこにこと笑顔で話すナルトの台詞に、ポンッと脳裏に浮かんだのはくったりとした猫のぬいぐるみ。
ナルトのストレスのはけ口となっているぬいぐるみは確かにボロボロで、綿はぺしゃんこになっている。
「ではおもちゃ屋に行きましょうか」
「うん!」
シカマルはナルトを抱きしめる腕に力を込め、更に森を走るスピードを上げた。
それからあっという間に目的地にたどり着いた二人は店に入り、沢山のぬいぐるみに囲まれて笑うナルトの可愛いさに癒されながら買い物を始める。
「これ可愛いってば!もふもふ!黒兄ちゃんも触って」
「あぁ、本当ですね」
柔らかい、とぬいぐるみを抱きしめるシカマルにナルトも満足そうに笑った。
思わずそれを見ていた店員がめまいを覚える程の光景を作り出す二人は更にああでもないこうでもないとぬいぐるみを物色していく。
そして漸く気に入ったものを見つけたナルトはシカマルにそれを買って貰い、買ってたばかりの黒いうさぎの大きなぬいぐるみを抱きしめて町を歩いた。
「黒兄ちゃんぬいぐるみありがとう!」
「どう致しまして。気に入るものがあって良かったですね」
「うん。これで夜寂しくないってばよ」
ぽつっと落とされた台詞に、やはり寂しい思いをさせていたのだと再確認したシカマルは下を歩いていたナルトを抱き上げて、こつん…と額を合わせる。
「すみません、ナルト。私が不甲斐無いせいですね」
「…違うもん。悪いのはじっちゃん。黒兄ちゃんだって…同い年なのに」
すまないと謝るシカマルにナルトは首を激しく振って否定すると、最後の部分だけ小さな声で言って、ぺちりとシカマルの頬を叩いた。
それに対してきょとんと。
初めて気付いたと言わんばかりの反応を返すシカマルにナルトはうさぎのぬいぐるみを押し付けてシカマルの腕から飛び出して、指を突き付けた。
「働きすぎなの!」
ビシッと音が鳴りそうなそれにそうか…と改めて自分の歳を再確認にして、確かに働きすぎかもと納得する。
「そうですね。もっと休暇増やして貰えるよう言っておきますよ」
「俺からも言ってやるってばよ!」
クスッとナルトの様子に微笑んだシカマルに、通行人の何人かがぶっ倒れた。
しかしそんな物視界に入らないようで、シカマルはぬいぐるみをナルトに渡し、また手を繋いで歩き出す。
「ねぇねぇ、黒兄ちゃん聞いてってば」
「なんですか?」
それから二人はぽてぽてとゆったりとしたスピードで歩きながら甘栗甘で買った鯛焼きを食べていると、不意にナルトが話し出す。
「俺ってば、嫌われてる」
「それは」
「良いから、聞いてほしいんだってば」
真剣な顔と声で言われて、ならばとシカマルはナルトを抱えると地面を蹴り、場所を移した。
ナルトの話しは、ナルトにとってとても大切なことだと気付いたから。
抱き上げたナルトと共にシカマルが向かった場所は、里にある草原。人の居ないそこはシカマル自身が気に入っていて、ナルトと暮らす前まで良く一人で来ていた場所だ。
「それで、話しとは?」
「うん。さっきも言ったけど、俺ってば嫌われてる。お腹に九尾って言うのがいるから」
「……」
「でも、でもね、俺はいつか火影になりたい。火影になって…皆に認めて貰いたい。それから黒兄ちゃんが、黒兄ちゃんじゃなくてシカマルでお仕事出来るようにしたいんだってばよ」
その台詞に、シカマルは目を見開いた。
まさか、ナルトがそんなことを思っているなんて考えてもみなかったし、自分がナルトに黒月ではなくシカマルと言う個人で見られているとも思って無かったから。
「黒兄ちゃんは、いっぱいいっぱい頑張ってるってば。でも、それは黒兄ちゃんでシカマルじゃない」
「ナルト…」
「いつか火影になったら、黒兄ちゃんはシカマルになってくれるってば?」
じぃっと、シカマルを不安そうに覗き込むナルトに泣きたくなった。
確かに自分はナルトと同い年で、シカマルと言う名前があるけれど。でもシカマルでは異端児として誰も受け入れてくれない。
黒月だと英雄のように扱ってくれる。
正直、最近そう言うのが少し重くて疲れていた面もあるシカマルにはナルトの台詞は痛いほど嬉しいものだった。
「ナルト…ありがとう」
今は黒くなっている髪を柔らかく撫でて、本当に嬉しそうに微笑んだ。
「私は…いや、俺は、ナルトの前だったら、シカマルに戻れる。だからそれで十分だ」
本来の口調でそう告げれば、ナルトは首を横に振る。
「駄目だってば。黒兄ちゃんだって…シカマルだって」
「ナルト。俺は暗部だ。分かるだろう?」
「………うん」
「表に出る存在じゃない。でも、もしナルトが火影を目指すって言うなら…」
そこで言葉を切って、ちゅっとまるで誓うようにナルトの額にキスを落として、強くナルトを抱きしめた。
「シカマルとして、側に居る。だから今はまだ、黒月で居ることを許してくれ」
「じゅーぶんだってばよ!」
にししっと太陽のように笑うナルトもシカマルに腕を回しがっしりとしがみつく。
そのまま二人は何をするわけでも無く、ごろごろと草原にねっころがったまま時を過ごした。
二人の約束が、いつの日か本当になることを願いながら。



END
実は結構心配性なナルくん。
LITTLEはやはりシカマル同い年ですからね!無理はいけません(リクエストと趣旨が違って申し訳ありませんorz)