言葉に出来ない ※ロングライフシリーズの二人です。 二人は三歳でシカマルも大分話せるようになった頃。 「シカマル、散歩行こう」 「散歩ですか?」 今日も今日とて読書に勤しんでいたシカマルの背中に抱き着き声をかけるナルトにシカマルは不思議そうに首を傾げた。 それに気付いたナルトはそうだよと言ってシカマルから本を取り上げて手を引っ張る。 「シカマル、あんまり外出ないだろ。外出ないと不健康になるぞ!だから出て目指せ小麦色!!」 にっこりと笑いながら、茶化すように言うナルト。 閉じ込められていたせいか、シカマルはあまり一カ所から動こうとはしない。 動けない環境にいたのだから当然と言えば当然だが、こうして自由である今そんな風にしている必要は無い。 だからナルトはこうしてシカマルを色々なことに誘う。足りない感情を補うように、少し不器用なやり方で。 「そう、ですね」 それに気付いているシカマルもそのナルトの不器用な優しさが嬉しくて、だからたいていの事ならば首を縦に振る。 「行きましょう、散歩」 「よし!じゃあ行こうぜ!」 シカマルからの是の声にナルトはもう一度シカマルに抱き着いた。 「じっちゃーん、散歩行きたい!てか行ってくる!」 バンッとナルトはシカマルと手を繋いだまま火影執務室に飛び込んだ。 シカマルもにこにこと笑いながら行っても良いか?と三代目に問えば、勿論良いぞと笑って返される。 「あまり遠出はするでないぞ?」 「分かってるって!」 「夕食までには、帰ります」 お揃いのコートを着てぱたぱたと外に出て行く二人…互いにフードを深く被って出なくてはならない現状に悲しさを感じつつ、和やかなそれを見送った三代目は大分感情を表すようになったシカマルと、今まで以上に明るく…今まで何処かしらで一歩引いている所があったナルトの二人に安堵の息を吐いた。 それから二人は気配を消しながらすいすいと商店街を抜け、住宅街を抜け、欝そうと木々の生い茂る森…木の葉の北側に位置する懐古の森に来ていた。 「ここは?」 「秘密の場所。シカマルになら大丈夫だから」 森の入口でシカマルが首を傾げれば、ナルトはふんわりと柔らかく笑って繋ぐ手の力を込め森に入っていく。 本来ならばこの森に人間は入れない。 しかし何か膜を突き破るような感覚がしただけですんなりと中に入った二人は更に奥を目指して突き進む。 樹齢を重ねた巨木が生え、苔むした表面に水滴が浮かびきらきらと太陽の光を反射して虹色に煌めく。 若葉が美しいグラデーションを作りだし、白い純白の山百合がゆらゆらと揺れ、地面は天然のカーペット。 陽射しが蒸気にも反射して金のカーテンを作っている。 「凄い」 思わず、シカマルの口から感嘆の声が漏れた。が、何かしっくり来ないのだろう。 うん?と首を捻って今の感情に合う言葉を模索する。 それに気付いたナルトが足を止め、足元に咲いた黄色い花を小さな手で摘み取りシカマルに突き出した。 「シカマル、この花を見てどう思う?」 突然の問いに、シカマルは言葉に詰まる。 黄色い花はいくつもの花弁が折り重なった、小振りながらも存在感のある形。 可愛い? いや、違う。 先程から森を見て思ったものと同じ感情だ。しかし本の知識には該当するものが無い。 「すみません、わから、ないです」 ついにギブアップしたシカマルは申し訳なさそうにナルトに告げる。 それを聞いたナルトは一瞬、悲しそうな顔をした後そっと花をシカマルに手渡した。 「俺は、この花は綺麗だって思う。この花だけじゃなくて、森も」 にこっと微笑みながら言ったナルトに、シカマルは花を受け取って、ナルトの言葉を繰り返す。 綺麗…綺麗とは、ナルトはこの花や森のことだと言った。 その瞬間、今まで自分の中で納得出来なかった感情がストンと落ち着く。 「きれい、ですね」 言い慣れない言葉に戸惑いつつそう言えばナルトは嬉しそうに笑った。 「これから行くとこは、もっともっと綺麗なんだ。だから、楽しみにしてて!」 ぐいっとシカマルの手を引き前を歩くナルト。 柔らかな金の髪が風に揺れ、陽射しのカーテンによりきらきらふわふわと光る様はまるでこの世のものとは思え無くて。 手を引かれるまま歩くシカマルはそれを見て、なんだか無性に泣きたくなった。 『綺麗。ナルトは綺麗。良いなぁ』 以前、閉じ込められていたシカマルは闇と呼ばれていた。 石牢の中で唯一の自由は空を見上げること。 闇は夜の色。その中でシカマルは月を見ることが好きだった。 纏わり付くような闇を引き離すように、消し去るように黄金に輝く金の光。 月は、太陽の光。 太陽の光は、月になる。 『ナルトは、太陽で、月。俺は汚い色』 自分の色が嫌いだった。闇は自分の色で、この色に安心する自分を回りは汚いと言って恐怖したから、嫌いになった。 『俺は、ナルトの側にいても良いのでしょうか』 空に輝く月に纏わり付く闇のように、うざったい存在なのかもしれない。 そう考えるとやはりナルトと自分は違うんだと思わずにはいられなかった。 「なぁ、シカマル」 ふと、自分の思考に潜り込んでいたシカマルを呼びかけるナルト。 シカマルが顔を上げると、ぴたりと足を止めたナルトは満面の笑みで両手を広げた。 「じゃーん!俺の秘密の場所。すげぇだろ」 ナルトが手で示した場所は、広い湖。 水の色が外側から緑、青と色を変え光を受けた淵は黄色と赤に輝き不思議な色合いを放っている。 側の芝生には青い花が咲き乱れ、白い綿毛の花がふわふわ漂っていた。 「う、わ…」 「へへ、綺麗、だろ?」 するりと前に出たナルトは湖の上に立ちヒラヒラとコートの裾をはためかせ踊るように走る。 眩しい、あの石牢の小さな窓から見た満月のような儚さと存在感、美しさにズキリと胸が痛む。 反芻される、汚いと言う大人たちの声。 恐ろしいと言われた、真っ黒の自分。 「……ッ」 その瞬間、とてつもない恐怖に襲われた。いつか、綺麗なナルトに汚いと言われてしまうかもしれないと、黒は必要無いと言われてしまいそうで。 ぐっと胸の辺りを握りしめて俯くシカマルは、ズキズキと痛む胸の痛みに息を詰めた。 この痛みの感情が分からない。 ナルトを見て、汚いと言われるのが恐ろしい理由も分からない。 ただ、痛い。怖い。 しかし、次の瞬間、湖を走り回っていたナルトからの台詞に頭が真っ白になった。 「俺ここが大好きでさ、綺麗じゃん。だから大好きで綺麗なシカマルを連れて来たかったんだよな!」 にししっと。 少しだけ顔を赤くして笑うナルトに……シカマルの目から、涙が零れた。 勿論それに慌てたのはナルトで、突然泣き出したシカマルにどこか痛いのか!?怪我した!?とオロオロしながら聞いてくる。 シカマルはぽろぽろと涙を流しながら首を横に振って、慌てるナルトの肩に頭を預けた。 まだ、ナルトより小さい為すっぽりとそこに収まってしまう。 「ナルト、大好きです」 「うえっ、えぇぇぇっ!?」 ギュッと腕を回してナルトに抱き着くシカマルに、何がなんだかさっぱり分からないナルトは、けれとシカマルからの突然の告白に顔を朱色に染め上げわたわたとあわてふためいた。 一方で抱き着いたシカマルは、自分の中にあった恐怖心がナルトの一言により払拭されたことにより安堵の息を吐く。 自分がナルトが好きだから、初めて自分を外に連れ出して、自由をくれた大切な人だから、胸が痛くて、嫌われることに恐怖を抱いていたのだと。 それに気付いたシカマルは自分を綺麗だと言ってくれたナルトが嬉しくて泣いてしまったのだ。 「し、シカマル!?」 「好きです。大好き」 「うにゃぁぁあっ」 ぼふっ、と。 ついにいろいろ我慢の限界を迎えたナルトは奇声を上げて、そんなナルトを見てシカマルはにっこりと微笑んだ。 『ありがとう』 自由をくれて。 沢山の感情を与えてくれて。 手を伸ばしてくれて。 「ありがとう、ナルト。大好きです」 END 感情をナルトに教えて貰いながら成長するチマシカ。 なんだか暗い内容になりましたがorz ルリ様、リクエストありがとうございました! [戻る]
|