素面と二次被害 ※長編の中の『LITTLE』設定です。サスケやサクラと出会う前。 「黒月や」 「はいなんでしょう」 本日もシカマルは任務を済ませ、書類整理の滞っている三代目の仕事を手伝っていた。だが机を指で叩く仕事を溜めていた張本人は感謝しているとは到底思えない、どこかじっとりとした視線を向けてくる。 「ナルトは元気かのぉ」 「元気ですよ。変化の術もマスターしましたし、将来有望ですね」 「そうかそうか」 シカマルの台詞に満足そうに頷いた三代目は、もう一度そうかと呟いてその身を机から乗り出した。 書類に目を通していたシカマルは一体何なんだと胡散臭げな視線を向ける。 「時に黒月よ。わしは最近ナルトに会うて無いのじゃが」 「会わせてませんからね」 三代目の台詞を軽く流すシカマル。 そして訪れる、しばしの沈黙。 勿論、沈黙を破ったのは他でも無い三代目。拳を握り、どこから持ち出したのかナルトの写った写真を持って声を上げた。 「わしはナルトに会いたいんじゃぁあ!」 「人に押し付けといてなんつー勝手さだよこの糞爺!」 三代目の叫びに思わず素で叫び返してしまう。なにせ急に任務だと言って四歳の自分に同い年の子供を育てろと、確かに自分が一番適任であるのは理解しているが殆ど押し付けられた形で今現在ナルトを養育しているシカマル。 夜は暗部の任務を、昼はナルトに修行をしたり家事をしたり、ナルトが居るため持ち帰った暗解の仕事をしたりと何かと忙しく過ごしているのだ。 それで会えないのが寂しいだなんて勝手にもほどがある。 だが、そんなシカマルの心情など意に解さず、三代目はナルトに会いたいコールを連呼しながらシカマルを見た。 目は口ほどに物を言う…とは良く言ったものである。 「はぁ…分かりましたよ。連れて来れば良いんでしょう、連れて来れば」 「最初から素直に承諾せんか」 「……………。」 ちょっと本気で暗殺したくなったのはご愛嬌。 けれど何とか理性でそれを押し止めて、シカマルは明日の夜にナルトを連れて来ることにした。 昼間は、まだナルトを九尾と言う輩が出入りするので連れては来れないし、来させたくない。 その点夜ならば居るのは暗部のみ。ナルトの事を九尾と混同視するような教育をシカマルは行っていないし、暗部はナルトと顔見知りだ。 連れて来ても問題はない。 「あぁ、めんどくさい」 ナルトに会えることになり上機嫌になった三代目を尻目にシカマルは額を抑えてため息を吐いた。 時間は進み、次の日の夜。 まだ九時を回った所だが三代目が早々に暗部以外を帰した為辺りは静かなものだ。 「三代目、今日はやけに楽しそうですね」 「おお、蒼か。うむ、今日は黒月がナルトを連れて来るんじゃよ」 「ナルトを?」 今日は一番隊と二番隊とで任務を行う…まぁ今日は任務ではなく一般任務指令書の戦略作成なので任務と言うには微妙だが、とにかくそう言うことなので現在火影執務室にはシカマルの部下と総副隊長であるイルカ率いる二番隊のメンバーがいる。 そして三代目と会話をしていたイルカはナルトが来る、と言う台詞に顔を輝かせた。 「ナルトですか。久しぶりに会うなぁ」 「わしもじゃよ。黒月がちっとも連れてこんから」 ぶつぶつと文句を言う三代目に、シカマルの部下である一番隊の者たちは暗部の任務に普通は連れて来ないだろうと心の中で突っ込みを入れる。 この辺りは流石シカマルの部下と言えよう。 そうしていると、ちりりん、と軽やかな鈴の音が鳴った。 全員が一斉に音の方を見ると、黒いフードを被った塊を抱き抱えたシカマルの姿が。 「遅くなりましたか」 今日は簪では無く飾りのついた白と金の組み紐で髪を一つに縛り、高い位置で先端だけを垂らしたおだんご頭のシカマルがコキッ、と既に揃っているメンバーに首を捻った。 首筋に流れる鈴のついた組み紐がうなじを動き黒の着崩した着物に良く生える。 『(今日もまた一段と色っぽいなこの人は)』 一番隊、二番隊の隊員の心の声が一つになった。 途端、今まで全く動くそぶりを見せなかった黒い塊がもぞっと動き出した。 「んにぃーっ!」 「あぁ、引っ張ったら駄目ですって」 どうやらフードが絡み付いているらしい、ぐいぐいと細い小さな手がフードを乱暴に引っ張り、シカマルがそれを止め丁寧にフードを取り外す。 そして現れたのは、目が覚める程の綺麗な金。まるで光を集めて固めたような色彩の髪に、目は空をそのままはめ込んだかのような青。 小さな身体に、少女ともとれる愛らしい容姿に思わず歓声が上がった。 「ナルトー!!」 その中で最も大きな歓声を発したのは他でも無い、ナルトを連れて来いと駄々をこねた三代目だ。 最盛期を思わせるような素早さでシカマルからナルトを奪い取りぎゅうぎゅうと抱きしめる。 爺馬鹿全開の三代目にナルトを取られたシカマルは呆れ果て、イルカは苦笑を漏らした。 「じっちゃん苦しいってば!」 三代目からの抱擁にじたばたと手足を動かし暴れるナルト。それでも三代目は手を離さず、漸く満足した頃にはぶっすりと膨れっ面のナルトが出来上がってしまう。 「すまんのぉ、久しぶりでついつい」 すっかり機嫌を損ねたナルトを離さないまま膝に抱え頭を撫でる…が、ナルトは膨れたまま。 「ナルトー、ほら、機嫌治せ、な?」 「イル…蒼兄ちゃん」 ついにイルカも動き、ナルトの機嫌を治させようと頭を撫でるが…やはりあまり効果は無い。 すると、ナルトはべしっと執務机を叩いて無理矢理三代目から逃げると椅子に座って事を見守っていたシカマルの方にとてとてと走り、勢いのまま抱き着いた。それを慣れた動作で受け止めたシカマルは、イルカがやったようにナルトの頭を掻き交ぜる。 「ナルト、三代目も悪気があった訳では無いのですから、機嫌を治して下さい」 よしよし、と優しくナルトを撫でるシカマルに暗部たちが総隊長、イイ!と。クールでカッコイイ総隊長の優しさに溢れた一面にガッツポーズを取る。 だが次の瞬間、ガッツポーズなど取るなんて真似、とてもじゃないが出来なくなった。 「黒兄ちゃんじゃないと抱っこやだ」 三代目には非常にキツイ言葉を言い放ち、ぎゅうっとシカマルに抱き着くナルト。 その瞬間、シカマルの顔が輝いた。 「かーわーいーいー」 すりすり そう言ってナルトを抱きしめ笑顔で顔を擦り寄せるシカマルに……クールとカッコイイの台詞が木っ端みじんに粉砕する。 三代目とイルカも目をひんむいてナルトを抱きしめて笑っているシカマルを見た。 あの、何事にも同じない暗部の総隊長が! クールで子供らしさなんてかけらも無かったシカマルが! 笑って可愛いと言いながら子供を抱きしめているっっ!! …この時点で、二番隊の隊員の数名が後ろにぶっ倒れた。 しかしそんなもの二人はお構い無し。 「えへへ。黒兄ちゃんに抱っこしてもらうのは、ずっとずーっと大好きだってばよ!」 ニパッと笑うナルト。 シカマルもにっこりと綺麗に笑ってぎゅーっと音が鳴りそうな抱きしめ方をしてまた言い放つ。 「あーもー、どうしてそんなに可愛いんですか?本当に可愛いんだからっ!」 『可愛いのはあんただぁぁあーっっ!!』 ついに一番隊から声が上がった。イルカに至ってはシカマルが子供らしい顔をして笑う様を見て感涙、涙を滝のように流しながら喜んでいる。 そこで漸く周囲の状況に気付いたシカマルはキョトン…と、倒れている暗部と鼻を抑えている部下たち、石像のような三代目に涙を流して喜んでいるイルカを見て首を傾げた。 「どうかしたんですか?」 「隊長ォオッ!自覚、自覚を持って下さい!!」 「お願いですから、そのポーズやめて下さいッ!」 「な、ナルトくん、ありがとう、ありがとう!お菓子あげるから、ホント、可愛いく産まれてきてくれてありがとう!」 「黒月ィーッ!俺は、俺は嬉しいぞーっ!!」 なにがなにやら。 賢い頭脳を持ってしても今の状況がさっぱり掴めないシカマルは抱きしめたままのナルトと一緒にハテナマーマを浮かべた。 以降、シカマルが内勤の時にはナルトの姿が見られたらしい。 END シカマルさん頭は大丈夫ですか(オイ)リクエストに沿えているか大変不安ですが…。 唯世様、リクエストありがとうございました! [戻る]
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