スリーマンセル 「ねぇ、シカマル」 そよっ、と揺れる風を感じながら三人揃って土手に寝そべる。 昔は、これにもう一人、熊みたいな上司がいた。 ほんの少しの寂しさを感じながらいのは戯れのようにシカマルの髪をいじっている。 「なんだよ」 「紅先生、子供産まれたんだってー」 「知ってるよ」 「僕も見たよ。アスマ先生に似てたかも」 「うっそ、抜け駆けしたわね!」 いのはブンッ、と腕を振り上げてチョウジの頭を軽く叩くと勢いのままシカマルの腹の上にダイブした。 蛙の喉を潰したような悲鳴がシカマルから上がったが気にしていないようで。頬を膨らませていじけるいのの頭をチョウジが大きな手の平で撫でて何とか機嫌の向上をはかる。 「今度はいのも一緒に見に行こう。三人で」 「もう、しょうがないわね。許してあげるわー」 三人、と言う言葉にいのの機嫌が浮上する、が。 「つか、いの重い、退け」 「誰が重いですって!」 しかし、それもつかの間。 いのに下敷きにされたシカマルから出た抗議の声にいのが目くじらを立てべしべしとシカマルの額を連打し始める。 チョウジはあーあと呟きながら、けれどその光景があまりに自分たちらしくて、泣きたくなるくらい幸せな光景を止めることはしなかった。 そしてふと、シカマルが思い出したように額を叩くいのの手を掴み動きを止めると口を開く。 「なぁ、あのさ、俺来週から、暗部に所属が決まった」 なんでもないように言われた告白。 けれど二人の呼吸は、暫くの間完全に止まってしまう。 「な、ん…」 掠れた声で、いのがシカマルに問う。 チョウジもシカマルを覗き込むように身体を動かせば、ぼんやりしたような表情のシカマルは感情の無い声で言葉を紡ぐ。 「アスマの、暁を倒したって。上が決めた。もともと、俺の術は足止め用でもあるけど、裏を返せば暗殺向きだ」 こうなるのは薄々分かっては居たのだと言うシカマルに、二人は言葉を失った。 アスマを目の前で殺されたのは誰?ー―シカマル。 アスマを殺した相手の復讐。一緒に行きはしても倒したのは?ー―シカマル。 その時自分たちは役に立った?ー―それどころか足を引っ張った。 一番傷ついたのは?ー―シカマル。 暗部は、言葉の通り。 暗殺はとても、とてもとても危険だ。そして暗部の任務は何時だって命の危険と隣り合わせ。 それが、今回のことが原因で決まってしまった…なんて、残酷。 「いや、嫌よ!火影様はなにを考えてるの!?」 「やめなよ、いの」 シカマルの胸倉を掴んで揺さぶるいの。それを止めたのは、唇を噛み締めたチョウジ。 二人を見ていたシカマルは下を向いて、ごめんと呟いた。 「ごめんな。俺、どうしようも出来なかったんだ」 己の保身ではなく、いのやチョウジたちが傷つくことを謝るシカマルに、もうそれ以上の言葉を投げ付けることは出来ない。 シカマルの上に乗って、ギュッと拳をにぎりしめたいのは暫く考えこんだ後、その拳をシカマルの胸に叩きつけた。 「死なないで。あとはなにも言わないわ」 本当は、あるのだけれど。 でもそれを言ってしまえばシカマルの覚悟を踏みにじってしまう。だから言わない。 チョウジもシカマルに笑いかけて、いのと同じように死ぬなと、それだけを告げる。 「僕たちは、スリーマンセル、猪鹿蝶だよ。一人で勝手に死ぬのは無しだからね」 「…あぁ」 二人の台詞にシカマルは驚きつつも、嬉しそうに笑った。つられるようにいのとチョウジも笑い、そんな三人を撫でるように柔らかい風がするすると頬を通り過ぎた。 END 十班愛してるーッッ!! [戻る]
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