ハニーズ
ぜーっ、と肺から無理矢理息を吐き出す音を立てながら地面に崩れ落ちるシカマル少年はとてもとても疲れていた。
「シカマルー、だいじょーぶー?」
そんなシカマルを見下ろすいのはどこからか持ち込んだ木の棒で横たわる背中をどすどすと遠慮無く突き刺していく。
けれどそれに反応を返す体力すら無いのか、呼吸で肩を上下させるくらいしか動かない。
「あんたさぁ、ホント、体力と無縁よね。大丈夫なの?ひ弱な忍者なんて笑い話にすらならないし。ひょろひょろの身体だし」
返事をしないシカマルを良いことにぼろくそ言ういの。
言われているシカマルは少しだけ身体を動かすが、しかし事実な為言い返す事が出来ない。現在同期下忍メンバーの中で最も体力とチャクラが少ないのがシカマルだ。
事実上のどべはシカマルだといのは常日頃から思っていたりする。ナルトはどべでもチャクラ量はかなり多いし体力もあるが、シカマルはそれがない。
「情けない男ねー」
ぐったりしているシカマルに追い打ちをかけるいのに容赦なんて言葉は存在していなかった。
そもそも、今シカマルがぶっ倒れている理由は班で行う修業を行ったが為で、現在はアスマとチョウジが組み手(術有り)をしている真っ最中。
いのは既に終わった後だが、シカマルのようにはなっていない。
「可哀相な奴」
顔はイケて無い、アカデミーの成績はドベ2、体力チャクラは雀の涙。
可哀相だ、と自分の想い人と比べて、やっぱり可哀相ともう一度呟いた。
「よけーな、おせわだ」
そこでようやく今まで沈黙を続けていたシカマルが口を開く。
大分呼吸はマシになったらしいが、やはり苦しいのだろう、声は掠れていた。
「事実じゃない」
「……いじめっ子」
「あんたは昔から虐められる方よね」
ツン、と横を向いたシカマルの頬を木で突くいのを煩わしそうに手で払ったシカマルは腕に力を入れて起き上がる。
アスマとの組み手中に緩くなった髪紐のせいではらはらと髪が一筋顔に落ちた。
それを見たいのは棒を伸ばし器用に髪紐を解いてみせる。
「なにすんだ」
「変に解けてるのは見てて欝陶しいわ」
硬い髪は結い跡が残る事なくバサリと重力に従ってシカマルの肩に落ちた。一番長い箇所は背中まで達している。
「相変わらず、良い髪してるわー。いっそ括らずに居たら?」
「邪魔」
「女の子みたいで可愛いわよ。あんたそうしてるとおばさん似なんだから」
「全ッッ然、嬉しくねー」
ケッ、とやさぐれた雰囲気を出すシカマルにいのは腹を抱えて笑い出す。すると組み手が終わったのか、やはりこちらもボロボロのチョウジが二人に近寄ってきた。
「ただいまー」
「お帰りー。お疲れ様」
「うん。シカマルは大丈夫?」
「ぎりぎり」
はぁとため息混じりに片手をひらひらと振りながら言うシカマルにチョウジは苦笑しながら横に座る。
アスマもタバコを吹かしながら三人の側に寄ってきた。
何故か顔がニヤついている。
嫌な予感、と感だけは人一倍良いシカマルが眉を寄せると待っていましたと言わんばかりにアスマが口を開いた。
「いの、お前はもう少し周りを見ること。チョウジはスピード上げろ。んで、シカマル」
じっとアスマを睨みつけるように見る。
「……んだよ」
「そのままだと、女にも負けるぜ?髪を下ろしたら女顔のシカコちゃん」
「死にさらせ」
ぶくくっ、と髪を下ろしたシカマルを指指してにやにや笑いながら本日の組み手の評価をするアスマにシカマルはいのの持っていた木の棒を奪い取り思いっきり投げ付けた。
勿論それが当たるはずもなく、あっさりよけられる。
「まだまだだな」
口の端を持ち上げて笑うアスマに、流石にシカマルを馬鹿にされ続けたのに腹立ったいの(自分がするのは良いが他人がするのは許せない)とチョウジがシカマルの側にピッタリと張り付きこそこそとこれみよがしに文句を言う。
「大人げないわー」
「児童虐待だよね。名誉棄損で訴える?」
「野生に帰れ熊」
だが口々にそんなことを言われて黙っているほど、アスマは大人では無かった。
円陣を組む三人を捕まえて腕に納めると力いっぱい三人を抱きしめた。
「…いーい度胸だ、今日はまだまだたっぷり可愛がってやるぜ、ハニーズ」
『げっ』
三人の顔が、真っ青になった。

今日も十班は平和です。


END
最近迷走が多いな。