嫌な餓鬼
初めて人を殺した。
今日はそんな日。
何でかな。
戸惑いとか、無くて。普通さ、人に刃物を刺すのって、戸惑うじゃん?
だって俺痛いの嫌いだし。
血とか、見ると痛いし。
血ィ見て喜ぶ性癖だって持ち合わせてませんよ?
ヘマトフィリアなんて、冗談じゃない。
「と言う訳で、本日の任務終了です。あ、これ報告書と遺体っす」
五代目に任務報告書と、今回のターゲットだった相手の遺体を提出する。遺体って言うか、正しくは遺体が封された巻物。
初めて個人で書いた報告書は、どこぞの髭熊のお陰で簡単に出来上がった。むしろ初めてではない。
そもそも下忍に自分の報告書書かせてたあいつは上忍失格だと思う。
後から役に立つぞって、まぁ立った訳だから怒るのは筋違いか?
「そうか。ご苦労だった」
「本当ですよ。腹減ってどーしようかと」
「お前なぁ」
五代目からため息が漏れた。
なんだ、なんか変なこと言ったか、俺?
だって今回の任務、やったら走る羽目に合ったし、フォーマンセル組んでるせいであんま自由効かないし。
俺今成長期だから兵糧丸なんかじゃ足りねーし。質より量だぜ、基本。
「お前、ホントに今回殺ったのか?」
「殺りましたよ。つか殆ど俺っすよ。敵さんなんでか俺の方狙って来るから」
確かに弱そうだもんな俺は。
まだ十三だし。小さい…いやいや、これからだ。うん。
それにめんどくせぇが、弱い奴から狙うのは定石だから仕方ねぇけどよ。
「忍刀一本折れました」
「…新しいのは後日支給しよう」
「ども」
折れた忍刀も報告書の横に置いて(だって処理がめんどくせぇ)俺は空腹を訴える腹を満たす為に五代目に礼をしてから部屋を出る。
やっぱり何か変な視線とため息を貰った。何なんだ一体。
訳わかんねぇ。
部屋から出て扉を閉めると、肩を何かが叩いた。視線をずらせば見覚えのあるデカイ手。
「……熊は森に帰れ」
「てめぇ、他に言うことねぇのか」
「わー、アスマ先生こんにちはー、会えて嬉しいよー」
「棒読み止めろ。気持ち悪ぃ」
「一々注文の多い大人だな。アレか、可愛いらしく上目使いでシナでも作って抱き着けと。それした日にゃ俺は首吊って死ぬぜ」
「こんの、クソガキ…」
あー楽し。
アスマの顔見た途端報告書の事がフラッシュバックしたから嫌がらせ。
すげえ嫌そうな顔してるのを見て少しスッキリした。
「で、なんか用?」
暗に用が無いならどっか行けと目で訴えれば、さっき五代目から貰った視線と同じモノをぶつけて来る。
だから何なんだよ。
その物言いたげな目は。言いてぇ事があるなら口ではっきり言え。
何の為の口だよ。
「いや…あー、今日の任務、Aランクだったんだろ。お疲れ」
「どーも。で、それだけなら俺もう行くぜ。腹減ってんの」
そう言った途端、アスマはすっげー驚いたような顔をした。
俺、変なこと言ったか?
あれ、この台詞二回目?
「シカマルお前…実は頭悪いのか?」
「いや、元ドベ2にその台詞は間違ってるぜ」
まぁ、多分悪い方じゃねぇと思うけど。
そんなことを思ってると、今度はカカシ先生と紅先生が現れた。
任務帰りらしい。
何故か俺に近付いて来た。
「やっ、奈良くんこんにちはー」
「こんにちはカカシ先生、紅先生」
「こんにちは。奈良も任務帰り?」
「はい」
この二人とはあんま面識無いから差し障りが無い程度の礼儀を持って話す。
するとアスマが二人に近付いて、俺を指差した。
おいこら、人を指差すな。礼儀知らずめ。
指差された本人に視認出来る位置からのソレは良くねぇんだぞ。相手が気付いてないなら良いけどな。
「お前ら聞けよ。コイツ今日初めて烏した癖に、腹減ったとか吐かすんだ」
烏…あぁ、隠語で確か意味は人殺しだったっけ。
つか腹減るのは生理現象だ馬鹿。人間の三大欲求だろうが、食欲って。
「嘘…え、そんな風に見えないわよ」
「最低でもコイツ三人は殺ってる筈なんだぜ」
何故あんたがそれを知ってるのか激しく気になるから後から問い詰めてやる。
「え、マジ?見えない見えない」
「アフターケア任されたんだけどよぉ…これってどうすりゃ良いんだ?」
アフターケアって、アレか。
人殺しした後情緒不安定になる奴のために行われるってやつか。
じゃあアスマがタイミング良く此処に居た理由はそれな訳。五代目、なんでアスマなんだ。
明らかに人選ミスだろ。
「おいオッサン。患者に対しての配慮が足りねぇぜ。て事で飯奢れ」
「アフターケアの必要性を感じないわね、確かに」
「右に同じ」
「初任務で戸惑ってた頃のシカマル、カムバック」
「気持ち悪ぃこと言ってんな、アホ」
誰だって初任務は戸惑うっての。カムバックしたら駄目だろ。
Aランクとか、戸惑ったらこっちが殺される。
今回だって一応そう言う任務だし…大体、俺はもう失敗したくねぇんだ。
大事な仲間を殺されるような真似するくらいなら、俺が殺す。それで仲間が傷付かないなら、俺は戸惑わない。
人の命の重さなんか知ったことじゃねぇ。知らねぇ人間の命は、紙屑と同じ価値しか俺には無いんだよ。
例えそれが罪の無い人間でもな。
だって忍が人殺しを否定したら飯が食えなくなる。
「で、用がそれだけなら帰るぞ」
おかしいと思ったさ。
本当は五代目やアスマの言いたい事も視線の意味も分かってたさ。
フォーマンセル組んだ年上の中忍たちに散々心配された。大丈夫かって。
普通は吐いたり、するんだと。
どっか感覚がおかしくなるんだと。
食欲なんか暫く湧かないからって兵糧丸渡されたさ。でも腹が減ってんだよ。
気持ち悪くもねぇ、ホント普通。
「俺腹減ってんの」
「あー、分かった分かった。可愛い元部下のAランク成功祝いに飯奢ったる」
「やきにくー」
「……どんだけ図太いんだお前は」
違うよアスマ。
俺にそう言う神経が無いだけだ。
だって、自分でソレを消したんだから。だから俺は簡単に人を殺せるし、殺した後何も感じない。
嫌な餓鬼だな、俺。
「あ、そうだ」
「どうした?」
「あんた、どっから俺が殺した人数聞いた訳?」
「………」
「見掛けによらず心配性だよな」
「悪いか」
「いや。ただな」
一旦言葉を切って、俺はアスマを、人を殺した時の目で、アスマを殺す対象のように見た。
「あんま干渉すんなよって、話し」
やっぱ、ヤな餓鬼だね、俺。


END
迷走した。