猛暑と三重奏
さんさんと降り注ぐ太陽の下、本日も任務をつつがなーく…忍者とは何たるかを頭の中で必死にエンドレスリピートしながら終わらせた十班の面々は地面の気化熱にウンウンと唸りつつ帰路を急いでいたりいなかったり。
つまりはだらだらと歩き続けているわけだ。
「あーつーいー」
じっとり纏わり付く空気を掻き分けてゾンビのように前のめりの状態で歩く子供+どんなに暑くてもタバコを手放さない見た目から暑苦しい髭熊はどこからどう見ても明らかに猛暑に参っている。
「木の葉はこんなに暑くないのにー」
「んにゃ、気温は一緒だぜ」
「え、そうなの?」
「そう。ただこっち側は雨隠れに近いから湿気が多いんだよ。めんどくせぇがな」
「へー」
「シカマルよぉ、お前どっからンな無駄知識集めてんだ?」
「無駄言うな髭熊」
知識に無駄なんて存在しないと、珍しくらしいことを主張するシカマルはオマケとばかりに渾身の力を込めてアスマの足を踏み抜いた。
よほどアスマの発言に腹が立ったのか、無意識に込められたチャクラにより増大された足の力は半端なものではなく、軽くクレーターが出来たのはご愛嬌。誰もうずくまるアスマを助けないのもご愛嬌。
素晴らしき仲間意識を持った十班の子供たちにとって一人の意思は全員の意思となるのである。
常々子供たちに対して『この三つ子がぁっ!』とのアスマの主張もあながち間違ってないのかもしれない。
「あーあ。木の葉まではまだ距離があるし…今日も泊まりねー」
「良いじゃねぇか。今回は宿泊費出たし」
「そうそう。前回は野宿だったからマシだよ。ね、いの」
「そーだけどー」
暑っ苦しいったら無いと叫ぶいの。
確かにそうだなと残り二人も同意する。渇いた空気での暑さならまだ堪えられる。それに湿気が加わった途端抗う術は残されない。
そんなわけでより一層だらだらする子供たちを流石に少しばかり可哀相だと思ったアスマ。そもそも下忍の小隊が国外任務につく事も稀なのに面白いくらいそれを回される十班(チームワークや持ち技が諜報や護衛向きなため)
忍に成り立ての者にとっては苛酷でもある。
「しょーがねぇなぁ。うし、宿場町に着いたら何か冷たいモン食わしてやるよ」
その言葉に三人の目が煌めいた。
「はいはいはーい、あたしパフェ食べたいでーす!」
「右に同じ」
「僕大盛りで」
「……ホント、欲望に忠実な奴らで先生嬉しいよ」
あっという間にダラけた雰囲気が払拭され一気に元気になる三人にちょっと、いやかなり早まったかなと財布の中を覗き込んだ。
ふっくらと満ち足りた財布。
なんと二日前は給料日。
甘い物だからいのとシカマルの食いつきも半端じゃない。
特に普段少食なシカマルは甘味になると際限が無い。チョウジとタメを張る時がある。
「言っても無駄だがとりあえず言っとく………手加減、よろしく」
『え、ムリムリ』
ほとんど懇願に近いアスマの呟き。しかしそれは右手を顔の前でブンブンと横に振るトリオのハーモニーに男泣きしそうになったアスマは、これから薄っぺらくなってしまうであろう財布を見て、本当に泣きたくなった。


アスマが土下座をしたかどうかは…子供たちだけしか知らない。


END