意味3
「じぃちゃん」
舌ったらずな声で呼べば、あっという間に目尻が下がってでーれでれ。
こんなのが火影と言う、忍をまとめる長で良いのかとおん年2歳でナルトは危機感のような何かを悟っていた。
「じぃちゃん、じぃちゃん」
けれどそんなそぶりは一切見せず、ナルトはぺたぺたと拙い足さばきで火影の足元に擦り寄っていく。
するとしわくちゃの手がナルトの脇に伸び、ひょいと軽々と持ち上げられる。老体と言えども腐っても忍であることに変わりは無いのだろう。
「どうしたんじゃ、ナルト」
「…」
「ナルト?」
ぐいぐいとズボンを引っ張っていたナルトになにか用があるのだろうと火影が尋ねる。が、ナルトは俯いたままでなにも答えない。
そんな様子に、火影は不思議そうにナルトの顔を覗き込む。一方のナルトは、『アレ』を言うべきだろうかと眉を寄せていた。『アレ』とは、世話役。
隣の部屋で横たわっているそれを放置はできない。それに急に消えた言い訳もできない。
やはり言うしか無いのだろう、とナルトは小さく息を吐いた。
「じいちゃん」
瞬間、ナルトの口調が変わった。
言っている台詞は確かに先程と同じもの。しかし明らかに雰囲気が、幼い子供のそれとは異なるものになっていた。
「じいちゃん、あっち。ごめんなさい。まだ理由が見つからないから」
文脈のかけらもない、単語だけで構成された台詞。
嫌われるかもしれない、恐れられるかもしれない。そんな複雑な感情の入り交じったナルトの台詞に、しかし火影はさほど驚いたようなそぶりを見せなかった。
「あっちに、なにがあるのじゃ?」
ごくごく普通に返される台詞に、思わずナルトの方が驚いた。
火影はにっこりと笑顔をナルトに向けると、すたすたとナルトを抱えたまま隣の部屋に続く入り口を開く。
途端飛び込んでくるのは、俯せで倒れた年若い女の死体と、むせ返るような血臭と、飛び散った野菜炒め。
「……」
なにも言わず、火影はその様子を見ると膝を折り、散らばった野菜炒めの中にあった小さな子種を拾いあげる。
ナルトはその間、一体なにを言われるか、と身体を固くして火影の出方を待った。
「トウゴマ…なんと言う酷いことを……ナルト、身体は大丈夫か?」
「ふぇ?」
しかし、ナルトが思っていたような自体は起こらない。
むしろ、怒りの感情を火影は世話役の女に向けているようにも見えた。
「え、あ、それは、影分身が食べたから」
「そうか…これを食せば相当の苦しみを感じるじゃろうからの。ナルトが食べんで良かったわい」
ふぅ、と息を吐き出す火影に、ナルトは戸惑いがちに口を開く。
「あの、じいちゃん、俺を怒らないの?俺を殺さないの?」
「馬鹿を言うでない。ナルトは自分を守るためにこうしたんじゃろ?忍が人を殺すのは道理。まして相手がナルトに害を及ぼそうとして、それに対抗したナルトを褒めこそすれ、何故叱り殺さなければならんのじゃ」
ふんっ、とまくし立てるように言う火影にナルトはぽかんとした表情を作るしか無い。
まさか、そんなことを言われるなんて、と。
「でも、俺まだ2歳なのに、こんなの、気持ち悪いよ」
「なぁに、ナルト気にせんで良い。お主の父、ミナトも同じじゃったからの。素質はあると思っとった」
はっはっはっと声を上げて笑う火影。
ナルトはえ、え?と更に戸惑いの声を上げ火影を見上げる。そして暫くして考えついた答え。
この部屋にある、おかしなくらいの本や、高等向けの忍術書。それらは全て、本当にナルトのために用意されたものだった。
つまり火影はナルトがこうであることを見越していた、と言うことだ。
「うそ…」
「じゃが、世話役のこれはわしの失態じゃ。スマンのぉナルト。謝っても、謝りきれん」
「う、ううん、じいちゃんのせいじゃないよ」
首を横に振るナルトに火影は申し訳なさそうにナルトの頭を撫でた。
そして、ナルトは九尾のことを知る。


END
四代目もスーパーベィビー化