新しい家族
三代目を始末して(※生きてます)長期休暇ももぎ取って大分機嫌の良くなったシカマルは時空間忍術を使い現在の自宅まで帰って来た。
現在時刻は夜の十一時。随分と早い帰宅に内心ガッツポーズをとりながら玄関を開ける。
「黒兄ちゃん!」
「っと」
瞬間、ぼふっと飛び掛かって来るナルトを危なげなく受け止め、よじ登って来るのを手助けしながら靴を脱ぎ中に入るシカマル。
腕に抱き抱えられたナルトは猫のようにすりすりとシカマルの肩に頭をこすりつけた。
「お帰りなさいってばよ。早かったね」
「えぇ。まぁ、今日は対したことしてませんから」
むしろしちゃってるけど、なんて突っ込みを入れる人間は今この場にはいない。
シカマルの台詞にそっかぁと呟いてナルトはぎゅうっと嬉しそうに抱き着く。
「ナルト、あの子たちは?」
「あっち。サーとサクは寝てるってばよ」
「サー、サク?」
聞き慣れない名前にシカマルが首を傾げるとナルトはにこにこと話し始める。
今日一日、シカマルは昼から任務に出て居なかったので三人で家にいたナルトたち。
ナルトは新しく来た二人とあっさりと打ち解けたらしい、九尾のことも話したそうだ。サスケも自分の力のことを話し、サクラも目のことを話して皆何かしら面倒事を抱えているからか、すっかり意気投合したようで。
あだ名まで付けて呼び合う仲にまで発展したそうだ。
「…子供って、凄いですね」
ぽつりと感心したように呟くシカマル。
忘れて無いか。自分も同い年だと言うことを。
すっかりナルトの保護者になってしまったシカマルは本来の姿に戻る事すらほとんど無くなって、完全に子供から大人の思考回路を形成してしまっている。
それで良いのかシカマル。
お前はまだ四歳だぞ!
と、イルカが居たなら涙を流しながら言うだろう。子供は子供らしくをモットーにしているイルカにとって今のシカマルは大変可哀相に見えているらしい。
それはさておき、とりあえず現状を理解したシカマルは軽く息を吐いた。
「黒兄ちゃん、どうしたってば?」
そんなシカマルにナルトは疲れたの?と聞きながら心配そうな顔をする。
「いえ。ねぇナルト。あの二人は気に入りましたか?」
「おうってば。俺たちもう友達なの!」
「そうですか……では、良いことを教えてあげましょう」
シカマルは頬を赤らめて喜ぶナルトに今日からあの二人が一緒に住むことになったこと、一ヶ月の休みを貰った(正確には問答無用で奪い取った)ことを告げた。
「ほ、本当だってば!?黒兄ちゃんお休みで、サーとサクと一緒に暮らせるの!」
「本当ですよ」
「やったー!」
きゃーっと足をじたばた動かしてはしゃぐナルトに、まぁナルトが喜ぶなら良いか、とあっさり、三代目に対する暴力と暴言をスッパリと忘れたシカマルはナルトを部屋に連れて行き、自分もシャワーを浴びた後ベッドに潜り込んだ。




「おはようございます。ナルト、サスケ、サクラ」
次の日、サスケとサクラはナルトに起こされてリビングに行くと、キッチンで料理をしているシカマルに出会った。
実は保護されてから二人は眠っていたし、昼からシカマルが任務に出ていたので会うことは無かったのである。
じゅうっ、と香ばしい音を立てるフライパン片手にシカマルが挨拶をすれば、料理の為ポニーテールの髪に使用している本日の髪留め、緑色の飾りゴムが音をたてた。
「あ…す、鈴の人」
その音にサスケが怖ず怖ずとシカマルを見るため顔を上げる。サクラも同様に、手を前で組み不安げな表情でシカマルを見た。
「黒兄ちゃんおはよー!ご飯なんだってば?」
「今日はフレンチトーストですよ」
「やった!サー、サク、手洗って来るってばよ」
「あ、うん」
それに気付いたのか、人の感情に聡いナルトが無理矢理空気の流れを変え二人の手を引き洗面所まで連れていく。
シカマルは三人分(朝は食べれない)のフレンチトーストをお皿に乗せ簡単にサラダを作り、最後に甘いカフェオレを四人分テーブルに並べた。
もともと四人掛けのテーブルだったので椅子の心配は無い。
そうこうしていると手や顔を洗い終わった三人がぽてぽてとリビングに戻って来る。
「どうぞ。とりあえず今は朝ごはんを食べて下さい。話しはそれからです」
怯えさせないように柔らかく笑いながらシカマルはどうしたものかとこの状況に対し考えあぐねている二人をテーブルに座らせた。ナルトはフレンチトーストが嬉しいのか、始終笑顔のままナイフとフォークを握ってぱくぱくと食べている。
二人も恐る恐る、フレンチトーストに手をかけた。
「おいしい」
「あまい」
ふにゃっ、と二人の表情が和らぐ。
横並びに座る三人を向かい側から見ていたシカマルは良かったと零してくしゃりと二人の頭を撫でた。
気恥ずかしそうに、けれど嬉しさを隠さない二人にナルトが横からムッとした表情をしたのは言うまでもなく。
自分も撫でてーッ!とシカマルに飛び掛かったり生野菜嫌いと文句を言ったりなどしながらとりあえず無事に食事は終わった。
そして現在、ソファーに座った三人と、向き合うように床に座ったシカマルは今の状況、そして二人はこれから一緒に暮らすと言うことを説明する。
話しの途中で泣きそうになりながらも我慢してそれを聴き続けた二人はこくんっ、と了承の意を込めて頷いた。
「しょうが、ないから」
「二人には、迷惑だったもの」
ふるっと震える二人。
ナルトが見兼ねたのか、正面に回りぎゅっと二人を抱きしめる。
「泣くなってば二人とも。確かに二人は悲しいかもしれない。けどこれからは俺や黒兄ちゃんが家族だってばよ!」
ニシシッ、と楽しげに笑うナルト。二人もそんなナルトに感化されたのか、自然と笑みが零れる。
「では私たちは、家族になるのですから、自己紹介をしましょうか」
笑い合う三人を眩しそうに見つめながらシカマルが口を開けば、我先にとナルトがソファーから飛び降りて声を上げた。
「はいはい、俺ってばうずまきナルト!よろしく!」
そんなナルトに続くように、サスケとサクラも声を上げた。
「俺は、うちはサスケです。よろしく」
「私春野サクラ。よろしくお願いします」
ぺこんっとシカマルに対して頭を下げる二人にシカマルもよろしくお願いしますと頭を下げ、自己紹介をする。
「私は奈良シカマルと言います。今の姿は変化で、この姿の時は黒月と呼んで下さい。まぁこの家の中でしたら本名でも構いませんが」
苦笑しながら、己のことを『黒兄ちゃん』と呼ぶナルトも居ますからどちらでも、と言うシカマルに対して、サスケがえ?と疑問の声を上げた。
「なんで変化してるの?」
「変化してないと保護者にはなれませんから。それに大きい方が都合が良いんです」
シカマルの言葉に意味が分からないと二人が首を傾げれば、ナルトがふっふっふと悪戯っ子の笑みでシカマルを指差した。
「実は黒兄ちゃん、俺たちと同じ四歳児だってばよ」
その台詞にポフンッと二ヶ月ぶりに変化を解いたシカマルは、ナルトと同じく小さな身体に戻り、ニッコリと笑いかける。
「まぁ、そう言うわけです」
子供特有の高い声で言いながら。



この後、家中に絶叫が包まれた。


END
お子様増えました。