命令そして断末魔
「ここ数日で三十は老け込んだ気分ですよ、三代目」
「は、ははは」
ギラギラと殺気立った視線を隠しもせず、むしろ堂々と晒すシカマルに思わず四丁目の角の工房に連絡してしまいそうな気分だった。
昨日シカマルが任務中に拾って来た子供。よくよく調べてみれば一人は名家うちは宗家の次男。もう一人はもう一人で草隠れから移住してきた者の娘で、親は病死し現在里人に引き取られて暮らしている娘。しかし遥か昔に絶えた筈の血継限界の瞳を持った少女だった。
身元が分かったからには親元に…と思ったのだが、しかしここで問題が起きた。非常にめんどくさいことに。
保護者が受け取りを拒否したのだ。
少女サクラの方は血継限界が恐ろしいと。少年サスケは彼の兄であるイタチによって。なんでも家内でのサスケの立場が危うく、力を持ちすぎているサスケを危険視する故に命の危険に晒されているのだと。
「どうするんです三代目。棺桶の準備は任せて下さい」
にぃーっこりと、これでもかと言うほど綺麗に笑うシカマル。勿論目は笑ってない。
明らかに怒っているシカマルの前に座る三代目はもはや蛇…否、死刑執行人に「ねぇ何時落として欲しい?あはは、ほぉーらそう言ってる間に死んじゃうぞぅ」とギロチンを落とされる間際の囚人の気分だ。
もういっそ、一思いに殺して欲しいけど微妙なラインで焦らされて発狂寸前みたいな感じ。
「く、黒月」
「はいなんでしょう?」
「おぬしがあの子供たちを世話するんじゃ!」
前から来るプレッシャーに言葉を詰まらせながらも何とか言い切る三代目。
何故言葉を言うだけでこんな、死ぬ覚悟をしなくてはいけないのだと今にも毛髪が綺麗さっぱり無くなってしまいそうだ。
「へぇ…私に、世話をしろと?」
「そうじゃ!昨日も言ったが、拾ったもんは最後まで面倒みよ!」
その言葉を最後に、ぱりんっと火影室の室内灯が割れる。
ポルターガイストじみたソレに三代目はヒッと息を飲んだ。
どす黒いチャクラの塊が物質化して室内のものを破壊していく。
ブワッと室内にも関わらず、生温い風が舞いシカマルの簪を揺らした。
ちりりん
ちりりん
ちりん
「覚悟しろよ、クソ爺。うちは託児所でもなけりゃ俺が保育士でも無いことを分からせてやらぁ」
深夜、里に甲高い鈴の音と、老人の空気を裂くような悲鳴が上がった。
何となく最初の鈴の時点で誰が三代目に何をしているのか検討のついた火影直属である筈の暗部は、本来なら駆け付けなければならないのに全員が一斉に執務室から離れたのをここに記しておこう。
忍と言えど、我が身可愛さには違いなかった。
むしろ機嫌の悪いシカマルの相手なんて熱狂的な自殺志願者でも無い限り嫌に決まっている。
暫く断続的に悲鳴が響いた後、執務室の窓硝子が全て割れ、シーンとした夜本来の静けさが戻った。
そして暗部たちが恐る恐る顔を上げれば…窓枠から身を乗り出し帰ろうとするシカマルの姿。
ただし右手に何やら黒光りする液体をつけた刀を持って…暗部たちはその記憶を素早く消却しながらシカマルを見る。
シカマルも視線に気付いたのか、下にいる暗部たちにニコッと、やっぱり笑ってない笑顔でそれはもう素晴らしい死刑宣告をしてみせた。
「一ヶ月有休取ったので、よろしくお願いしますね」
それだけ言うと瞬身で消え去ったシカマル。
ぽかん…と、暗部たちは時間にしてたっぷり五分間固まった後一斉に我に帰って叫び声をあげた。
『総隊長の鬼ィィィイイイッ!!』
後日、ご近所から苦情が出た。


END
三代目はギックリ腰と言う名目で入院。暗部たちは事実の捏造に励みましたとさ。