お買い物と付属品
今日は朝からシカマルが料理本片手に『朝食』を作りあげ、まぁまずくは無いかと実母の味と比較しつつ…本人はその程度の認識だが明らかにレベルは最上級…ナルトにも食べさせ後片付けを簡単に済ませると買い物をする為の準備に取り掛かった。
準備、と言うのもナルトをむやみやたらに曝すわけにもいかないので変化をさせると言う意味である。しかしながらまだ忍術のにの字すら知らないナルトがいくらアカデミークラスの変化の術であっても使えるはずが無い。
ならばどうするか。
答えは簡単、術符を使う。
「良いですかナルト。全体を変化させる必要はありません。髪の色と、顔のあざだけを消して下さいね」
「くろにいちゃんとおんなじがいいってばよ!」
「漢字で喋れるようになったら許可しましょう」
「ウーッ!」
シカマルの台詞にナルトは文句を落とす…が、あまりにもっともらしい返答に唸るしかない。
確かに、まだまだ舌ったらずな自分が大人の姿と言うのも変だと思う。が、シカマルに置いていかれるのも気にくわない。
「くろにいちゃんのケチ!」
「置いて行きますよ」
「………いじわる」
「そうかもしれませんね」
ククッと喉で笑うシカマルにナルトはだしだしとじだんだを踏みながらまた唸る。
そんなナルトを可愛いなぁと目を細めながらシカマルはふわふわの頭を落ち着かせるように掻き交ぜた。
そしてナルトの背中にぺたりと術符を張って、印を組む。するとそれに反応した術符が光り、ナルトの中のチャクラを使って術が発動したのを確認して最初に教えておいた変化の印をナルトに組ませる。
「はい、それではどーぞ」
「へんげっ!」
ぼふん、と間抜けな音と白煙が室内に満ちた。
外からの手助けにより、ナルトの髪の色ははちみつ色から黒色に変わる。目は空の色のまま、頬のあざも綺麗に消えた。
「おや…黒で良いんですか?」
「くろにいちゃんのいろだから、これがいいってば」
にへっ、と誇らしげに…先程までの不機嫌さが嘘のように笑うナルトにシカマルは抱き着いた。
「あーもー可愛いんだから」
すりすりと頬を寄せるシカマル。このナルトに出会ってからの二日間で見事なくらい壊れ始めている。
「くすぐったいってばよ」
きゃーっと嬉しげな声を上げるナルト…今まで火影夫人や三代目、それにイルカに愛情を貰って来た。しかしそれでも自分に向いて来る視線には悪意を持つ人間の方が圧倒的に多くて。
そんな中で新しく現れたシカマルは自分と同い年なのに強くて格好良くて、ナルトに取ってあっという間にシカマルがトクベツになっていく。
自分を守ってくれる、安心できる存在に。
「それでは、いきましょうか」
「うん!」
大きく頷いたナルトにシカマルも今まで感じたことのない温かな感情が芽生えた。




「くろにいちゃん、くろにいちゃん!これくろにいちゃんににあうってばよ!」
「……ナルト、それ、簪に見えるんですが」
家を出て二時間、生活に必要なもの、主にナルトの洋服や食器類に、快適空間を欲したシカマルによって新しいベッドやふかふかのソファーに毛足の長い絨毯などなど。稼ぐだけ稼いで使い道の無かった金を存分に使うシカマルは買ったものを影の中に放り込んで(死の森まで宅配なんて無理な相談)ナルトと一緒に雑貨屋を巡る。
そんな中入った店、きらきらと光る装飾品の並べられた店に入ったナルトは惹かれるように一つの商品を取ってシカマルに突き出した。
それは赤い鼈甲に金細工が悪趣味で無い程度にあしらわれ、先に黒耀石の蝶をモチーフにした飾りがついた簪。
どこからどう見たって女物。
ナルトが手を揺らす度、先端に結ばれた赤い組みひもにつく鈴がちりんちりんと可愛いらしい音をたてる。
「かんざし?これかんざしっていうんだってば?」
「そうですよ。女性が髪につける装飾品です」
「きれいだってば。くろにいちゃんのかみににあうってばよ」
「話し、聞いてます?」
ちりちり音を上げる簪を恨めしげに見つめるシカマル。視線をナルトに移せばどこまでも期待に満ちた目をこれでもかと輝かせている。
純粋な思考ほど怖いものはないな、と齢四歳にして悟ったシカマルは簪に視線を戻しフッ…と達観したような顔をした。
「…買いましょう」
「やったってば!」
全てを諦めきったシカマル。しかしこれがいけなかった。
最初が肝心、と何事にも言える事だが、これ以降シカマルの髪に装飾品の類を飾りたがるナルトを止められなくなったのは自業自得と言うべきか…とにかく今後もナルトが男とかそう言うのを抜きにしてきらびやかな髪留めや簪を買い漁るきっかけを作りあげてしまう。
まぁそれは置いておいて。
なんだかナルトに押されっぱなしのシカマルは、少しだけ悔しくなったので簪を買う間際、目に飛び込んだ物もついでに買った。
それはふわふわの白い羽根と金色の星の型をした鈴が二つついた髪ゴム。
「くろにいちゃん、これなぁに?」
会計を済ませチェックの紙袋に入った簪と髪ゴムを持ったナルトは中に入っている、自分が選んだ物とは違う可愛い装飾のついた髪ゴムを不思議そうに見つめる。
シカマルはニィッと軽く笑うと、ナルトを連れて公園に向かった。そしてナルトを木のベンチに座らせると紙袋からゴムを取り出し、ナルトの今は黒い、ふわふわの髪の毛を手で軽く梳いて周囲の髪を集めると手際良く髪ゴムで結んだ。
ぴょこんと耳の上に飛び出た髪に羽根と星の鈴がふわふわと靡く。そしてシカマル自身も降ろしたままだった髪を両サイドだけ取りおだんごにして簪をさした。
「とっても可愛いですよナルト。良く似合ってる」
よしよし頭を撫でるシカマルに、ナルトはパァァ!と輝いた顔でぎゅうっとシカマルに抱き着き興奮したように上目使いで言う。
「くろにいちゃんもすっごくにあってるってばよ!!」
チリリン、とシカマルの簪の鈴より高い音を出すナルトの鈴。
それがちりちりと控えめな簪の鈴の音と混ざり合う。
「喜ぶべきか些か疑問ですが…ありがとうございます」
「えへへぇ〜」
その日から、シカマルの髪には鈴の付いた簪が留められるようになり、ちりんちりんと軽やかな音が響くようになった。
ナルトが頑なに外すことを拒んだから。
「で、結果がこれですか」
数日後の夜、火影室で不機嫌そうに最新版のビンゴブックを握り潰しながらどこまでも低い声で殺気と言う名の冷気を垂れ流すシカマルこと黒月に、一番隊のメンバーがヒィッ!と悲鳴を挙げていた。
シカマルの握り潰すビンゴブックに書かれた文字。
特Sランク犯罪者、木の葉の『闇姫』『アゲハ姫』……そして追加でこう書かれていた。
『鈴音姫(スズネヒメ)』と。
「……やはり、ビンゴブックの制作組織は潰すべきですね」
「そ、そそそ総隊長お止め下さい!」
「えぇい煩い煩い!!私はもう我慢できません!」
「誰か、誰かー!」
「総隊長ご乱心だ!暗部全部隊を収集して止めろ!国が一つ消えるぞ!!」
「ビンゴブックは俺たちの生命線ですからぁぁあああ!」
「これ無いと任務出来ないっス!」
「これ位覚えなさいグズ!」
『無茶言わないで下さいッッ』


END
あれ、シカがぶっ壊れた。