個人的自己紹介 「カヅキ、お前なにやったの。マインドコントロールでもした?」 「してねぇよ」 目の前で机に平伏す子供たちにシカマルは訳が分からん、と言った様子で首を捻った。 カタクリからアカデミーの教員を任された(ナルトが一方的にシカマルを巻き込んだとも言う)二人は変化をした状態でアカデミーを歩いていた。 ナルトは白のハイネックの長袖に暗部の黒いズボン。肩甲骨あたりまである髪は普段二つに分けているのを今は首もとで一つに結んでいる。 シカマルは黒いハイネックの長袖にナルトと同じく暗部のズボン。腰まである長い黒髪は顔にかかる両サイドだけを取って結び、残りは結ぶことなく後ろに流していた。 対照的な色合いの可愛い系の美形と美人系の美形が並んで歩く姿はある意味強烈である。残念ながら本人たちは完全に無自覚だが。 「へぇ〜、アカデミーって結構広いんだな」 キョロキョロと物珍しげに周囲を見渡すナルト。シカマルは怠そうに顔を歪めアホ面して…非常にもったいない話しだが…のろのろと歩いている。 頭の中は昼寝したい…だとかめんどくさい…だとかが大半を占めているのは言わずもがな。 心底めんどくさそうにしている。 そうこうしながら職員室にたどり着くと、入口に教材を抱えたカタクリが満面の笑みで二人を出迎え、立って二人にこちらですと案内する。 「本当に来て頂けるとは思いませんでした」 「約束は守る。なぁカヅキ」 「…そーだな」 「おや、黒月様…成る程、そちらがアカデミーでの性格ですね!」 ナルトの言葉怠そうに地のまま言うシカマル。に、なにを勘違いしたのかそれを演技だと思っているカタクリにナルトは吹き出しそうなのを懸命に堪えた。 どうもシカマルの、黒月としての周囲の評価は『物静かで冷徹で仕事の出来る敬語の使い手』だと認識されているようで、今のシカマルこそが地だと全く気付いていない。 「葛殿、アカデミーでは我等の名前はコヨウとカヅキ。それと…うん、俺はとっても明るいやんちゃな先生って設定でよろしく!」 「すみませぬ。しかし…やはり暗部最強のお二方、性格や雰囲気まで完璧に変えられるとは。感服致します」 「はっはっはっはー」 むしろこっちが限りなく地です…とは流石に言わなかった。 ナルトいわくイメージって大事だよねとの事。本音は近寄りがたい存在の自分たちに他の人間が纏わり付いてくるのが嫌なだけであるが。 「それではお二方にはアカデミーの中高年のお相手を頼みます。実技と座学がありまして、現在足りない座学教科は薬学と暗号解析です」 「ふーん。ならカヅキが座学、俺が実技だな」 「ま、結果的にそうなるか。めんどくせーなぁ」 がりがり頭をかきながら教材を受け取るシカマル。ナルトはカタクリに現在の実技の進行状況などを聞き、その間にパラパラと教科書を流し読みしたシカマルはそれを閉じて授業内容の立案に入る。 どうせやるのならば徹底的にたたきあげて即実戦可のレベルまであげてやる、と考えることはナルトも同じらしくニヤリと笑いながら思案していた。 そこでふと思い出したかのようにシカマルの足が止まる。そしてカタクリに振り返ると真剣な…口調はそのまま、黒月としての顔でカタクリに話しかけた。 「学長。一つ良いか?」 「なんですか?」 「あー、まぁ対したことじゃねぇんだが、俺らは教師なんざやったことはねぇ。けど俺らは生易しい教育なんかする気もねぇ。限りなく実戦で使えるように指導するつもりだ」 「分かっております。ここに居るものは忍になるために通っているのですから」 「なら良い。俺らに型にハマった教育を期待してくれるなよ」 「ま、少し無茶させるかもしれないけど怪我させるつもりは無いから」 シカマルとナルトはそれだけ言うとまた歩き出す。 カタクリはその様子に目を細めながら、ふぅっと息を吐いて力を抜いた。真正面から二人に見られただけで身体が強張っていたのだ。 「流石、言葉の重みが違う」 上に立つもの、ある意味その頂点に居るであろう二人の迫力に否とは言えない。 きっとこれから生徒たちは大変だろうな、と思う反面、彼らに教わることが出来るなんてなんと素晴らしいことかと思いながらカタクリも二人を追うように歩き出した。 それから、カタクリは二人にアカデミーの内部を一通り案内し、教室まで送り届けると後は頼みましたと席を外す。 あまりにあっさり丸投げされたので若干不安に思いつつも軽く苦笑して受け入れた。 「さてさて…そんじゃま、頑張りますか。ね、カヅキ先生?」 「それはこっちの台詞だろ、コヨウ先生?」 ククッ、と喉で笑う二人は扉に手をかけた。 扉を開き教室に入ると、段状に並べられた机に疎らに座る子供の姿が目に入る。 ナルトはさっさと教卓にまで進と、ぱんっと軽く机を叩いてにっこりと綺麗に微笑んだ。 「えー、今日からお前らに実技を教えることになったコヨウでっす。とりあえず自己紹介すっけど聞きたいことあるかー?」 突然入ってきた綺麗な、多分男性だろう二人にぽけっとしていた生徒たちはしかし、子供ならではの立ち直りの速さであっという間に回復するとハイハイハイ!と手を挙げて激しく主張を始める。 「コヨウ先生いくつですか!」 「身長とか教えて下さい!」 「てか男なんですか!?」 「恋人居ますか!」 「趣味、趣味は!!」 「結婚してますか!?相手は誰ですか!」 「先生の一番好きなものは!!」 「おーおー、良いねぇお前ら、元気があって」 ナルトの台詞にマシンガンの如く浴びせてくる質問にけらけらと笑いつつ律儀に全ての質問に返していく。 「俺は永遠のハタチ!身長は175センチと標準、で性別は付くもん付いた立派な男だ。恋人はこの俺様に居ない筈が無いだろ!!趣味はガーデニングと任務。任務が趣味だが趣味が好きなものとは限らないぞ!残念ながら結婚はまだだな。一番好きな物は一楽のラーメン、好きな者はカヅキ!!ついでに嫌いなものは物でも者でも蛇だ!よろしく!」 元気良くそう言い切って…一部自己紹介の内容に隣で生徒名簿を見ていたシカマルがグッと眉を寄せたが何を言っても無駄だと言うのが分かっているので突っ込まない。 そんな訳でナルトの楽しい自己紹介が終わり、一部ほぅっ…と熱い眼差しを送る者を除き…むしろ一部と言うか大半だが。とにかく好印象で済んだ。 シカマルも名簿を読み終わったのでのそっと顔を上げる。 長い黒髪が、さらりと揺れた。 そして顔を上げた瞬間、っ…!と生徒から息を呑む音が聞こえる。 「あー、俺の名前はカヅキ。薬学と暗号解析の、主に座学を受け持つ。なんか質問あるか?」 切れ長の黒真珠の瞳が、クラスを一瞥する………と、ボヒュッと音が出たんでは無いかと言うくらいの勢いで顔を赤く染めた生徒が机に沈んだ。 「カヅキ、お前なにやったの。マインドコントロールでもした?」 「してねぇよ」 と言う訳で冒頭に戻るわけだが。 なんだなんだとシカマルが首を傾げると、復活した生徒がわらわらとナルトの時同様声を上げ始める。 「先生、スリーサイズ教えて下さい!!」 「げ、下僕募集してますか!?」 「奴隷はどうですか!」 「お嫁に行っても良いですか!?」 「むしろ婿でもかまいませんッッ!!!」 「どんな貢ぎ物なら喜んでくれますかッ!?」 「コヨウ先生の言ってた好きな人はカヅキ先生ですか!?」 「おい、お前らなんでそんなに俺に対しての質問がマニアックなんだよ」 引き攣る口元を何とか頑張って隠しつつ、シカマルも突っ込みを入れるように返答を返す。 「スリーサイズなんか知らん。身長は180センチ体重は最近変動が激しいから答えられねぇ。下僕も奴隷も普通に必要ねぇっての。嫁ってお前このクラスは男しか居ない筈だろ馬鹿。ついでに婿を迎える気は無い。俺に貢ぎ物するなら禁書レベルのモン。あと甘いモンは大歓迎だ。コヨウの言ってたのは多分俺だろうな」 全ての質問に的確に答えつつ突っ込みを入れるシカマルに、何故か恍惚の表情を浮かべる者多数。 最後の台詞をげんなりしながら言ったシカマルに、ナルトはにやにやと笑いながらまるで見せ付けるようにシカマルに抱き着いた。 「カヅキは俺のモンだから、手、出すなよ?」 そう言って、ふわりと極上の笑みを浮かべるナルトに……子供たちは人生初となるだろう、興奮で鼻血を出すと言う醜態を晒して完全に沈黙した。 「出た…キラースマイル。つかめんどくせーことしやがって。コレの始末どうすんだよ」 「えー、忍たるもの出血の処理ぐらい自分でやらなきゃ駄目だろー」 「いや、むしろこの状況が駄目だろ」 どうやらシカマルにとって非常にめんどくさい状況が出来上がってしまったらしい…と、今日一番大きな溜め息が教室に響いた。 END 思わず抱き着いてしまいたくなるコヨウ先生と、自分を踏んだり蔑んで欲しくなるカヅキ先生。カヅキ先生に至ってはドン引き。 [戻る]
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