意味1
「あーあ」
もぞもぞと居心地悪そうに身体を捻る小さな子供は、手に持った木で出来たクナイのおもちゃを振った。
ふかふかのソファーの上に半ば埋もれる形で座っている子供、ナルトはため息を吐く。
やたら、ジジバカを発揮する三代目の用意したこの部屋の家具は非常に素晴らしい誂えのものばかりで、それだけでは無く子供の部屋と言うには勿体ないくらいの蔵書の棚。
明らかに今のナルトの…2歳と言う歳の子供の部屋にあるには不自然過ぎるような高等向けのものもちらほらと混じっている辺り、作為的なものを感じずにはいられない。
「はぁ」
またため息を吐く。
部屋の奥からは、じゅうっ、とモノが焼ける音と香ばしい香りが漂ってくる。しかし、よくよく鼻をひくつかせれば、微かに混じる苦みを含んだ香り。
「出来たわよ」
木製クナイで遊んでいるふりをしながらもナルトは今日も出されるであろう食事にため息が止まらなかった。
「…なる、これやだ」
どんっ、と目の前に乱雑に置かれた皿。一見ただの野菜炒め…しかし、ナルトにはその中に含まれるあるモノが見えて内心で眉をしかめた。
「食べなさい。火影様に叱られるわ」
「なるおなかへってない」
「食べなさい」
クナイを取り上げられ、れんげですくわれた野菜炒めを口の中に入れられ、口と鼻を塞がれる。
空気が入って来ないために、必然的にそれらを噛んで飲み込んでしまえば、咥内に広がる強烈な苦み。口の中が焼けるように熱くなり、舌に水ぶくれのようなものができる。
そしてようやく口と鼻を解放して貰え、空気を吸い込んだ途端、喉の筋肉が膨張した。
『トウゴマかッ』
喉の奥が腫れ気道が塞がり上手く呼吸が出来ない。
トウゴマ、と言うのは非常に強い毒性を持った子種のことで、リシンと言う毒性タンパク質を保有しており、成人を基準とした摂取量は0.16グラム。ナルトほどの子供であれば1粒食しただけで脱水症状を起こし死に至るものだ。
「かはっ」
血圧が低下して意識が混濁。
しかし、ナルトにはそれ以上の症状は現れなかった。
「けふっ、かっ」
じぃん、と臍を中心に身体からゆっくり身体が正常な働きを取り戻していく。
気管が潰れ呼吸が出来なかったのもあっという間に回復していく。
ナルトにとってはありがたいことこの上ないのだが、ナルトに毒を盛った張本人、所謂ナルトの世話役だった女は頬に爪を立てながら奇声を発した。
「やはり死なない、死なない!化け狐!」
そう叫ぶと女は背後に隠し持っていた包丁を両手で握り振り下ろす。
ナルトはまだ痛い口を押さえ、ぼんやりと振り下ろされる銀の刃を見上げた。女はきっと、振り下ろさた包丁が幼い身体に突き立つ瞬間を見ている。
「え、あ?」
どずっ、と肉を引き裂く音が立つ。
「あーあ」
フシュゥッ。
「ざんねん。かげぶんしんでした」
血霧が背後に吹き上がる。
女は自分になにが起こったか、さっぱり分からないと言う顔で地面に崩れ落ちた。
びくびくと身体が跳ねる。
女は、木製のクナイで頚椎を断ち切られこの世から別れを告げたのだ。そして、倒れ込んだ女に押し潰されたナルト…いわく、影分身のナルトは白煙を上げて掻き消える。
残ったのは血を流し続ける女だったモノと、血のついたおもちゃを握りしめるナルト。
「ごめんねお姉さん。俺、生きていたいんだ」
ぽつ、り、そう呟いてナルトはしゃがみ込み見開いたままだった女の瞼を下ろした。
「俺、まだなにもしてないから」
生きる意味すら見つけて無いのに、死ねないよ。
苦笑するようにナルトは誰に聞こえるわけでもない台詞を言った。


END