ちょっとした失敗 「しまった…食材が無い」 空っぽの冷蔵庫を見て、あぁとかうぅとか声を上げるシカマル。 部屋の整理も終わり、ナルトや己の日用品は明日買いに行くことになっている。金は有り余るくらいもっているのでその辺りは一切心配無いのだが、今はそんな事よりも大変な事態に陥っているのだ。 「くろにいちゃん、ごはんない?」 「…これは、私のミスですね……仕方ありません。今から買い物に行って来ますのでナルトは留守番を頼みますよ」 新しい家で住む為の準備云々の方にばかり頭が行っていて食事のことをすっかり忘れていたシカマル。自分だけなら別に食事くらい抜いたところで訳無いのだが、ナルトはそうはいかないだろう。 まだ夕食には少し早い時間、急いで買い出しに行けば問題は無いはずだ。 ちなみにこの時点で出来合いの物をチョイスしない辺りシカマルらしかったりする。 「ナルは、いけないの?」 そんなシカマルにナルトは不満そうに唇を尖らせた。置いて行かれると言うこと自体が不満なのである。 シカマルは苦笑しながら柔らかい金糸をくしゃりと撫でて申し訳なさそうに口を開いた。 「すみません。今のナルトを外に出すことは危険なんです」 「……ナルがばけものだから?」 「ナルトのせいではなく、馬鹿な大人の馬鹿な考えのせいですよ。ですがそのせいでナルトの身に危害が及ぶ可能性…痛いのは嫌でしょう?」 「…うん」 「すぐに戻って来ます」 諭すようなシカマルの台詞にナルトは渋々引き下がり、黒いソファーに飛び乗って火影邸から持って来た猫のぬいぐるみに頭をぐりぐりと押し付けて鬱憤をぶつけ始める。 可愛い動作にシカマルの顔も自然と和らいでいった。 「いってきます」 「ウーッ」 送り出すのが嫌で嫌でしょうがないと言うような唸り声にシカマルは小さく噴き出しながら買い物に出掛けていく。 それから約三十分後。 簡単に作れそうなものの材料といくばくかの調味料を買い揃えて戻って来たシカマルの目に飛び込んで来たのは……かわいそうなことになっている猫のぬいぐるみ。 ナルトのストレス発散の相手として定番なのか、確かに最初見たときから大分くたびれている印象は持っていたのだがまさか、まさか。 「四の字固めですか…やりますね」 「くろにいちゃん!」 一見、見た感じぬいぐるみを横抱きにしているようにしか見えないがシカマルにはバッチリ理解出来た。 ナルトがぬいぐるみに対して、それはもう見事な寝技をかけていることに。 一体どこでそんなことを学んだのかと問いただしたくなるくらい綺麗に技の決まったぬいぐるみは、可愛いくりくりした黒い瞳が有らぬ方向を向いてしんなりとしていた。綿が寄っているらしい、なかなかシュールな光景だ。 「おかえりなさいってば!」 「えぇ、ただいま。随分楽しそうなことをしてましたね」 「えへへ。あのね、これってばイルカにいちゃんがおしえてくれたんだってばよ。へんたいさんにあったときのためなんだって」 「……蒼が原因ですか」 イルカ…海野イルカはどうやらナルトと面識があるようだ。ちなみにシカマルとも面識が有り、イルカもといまたの名を蒼、暗部副隊長だったりする。 買った物が入った袋をテーブルに置いてフッ…と軽く息を吐きつつシカマルはナルトを横目で見た。 シカマルに褒められたのが嬉しいのか、ネッククランクをかけて遊んでいる。 「ま、可愛いから良いか」 後にこの判断が某銀髪から涙ながらの批判となって返ってくるのだが…知らぬが仏。むしろ知っていたなら喜々として他の技の伝授を始めるだろうシカマルが居るのを追記しておく。 「さて、上手くいくかわかりませんが…初めての料理といきますか」 よほど変なことをしない限りまずいものは出来ないだろうとシカマルはごそごそと調理に取り掛かった。 「明日も忙しくなりそうですね」 END 今回は閑話って感じで。 [戻る]
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