舞姫と歌姫2
暗部の任務も終わって、もう仕事も無いしこの先は人通りが無いから面を外したままさぁ帰ろうと廊下を歩いていると不快な気配と声が俺の行く手を阻みやがった。
この時面を外していた事を物凄く後悔。
「わしに気付いたか…噂に違わぬ実力だ。わしのもとに来ぬか、白陽殿」
にこにこと、嘘臭い笑みを作った、影から現れる爺…ダンゾウに俺の眉が反射的に寄った。
「…これはこれは、ダンゾウ殿。小生にお声をかけて頂き光栄至極の極み」
とりあえずこう言う人間は下手に出られると喜ぶからスッと腰を折って膝をつく。
暗部式の礼に、随分機嫌を良くしたらしいダンゾウは更に嘘くさい笑みを深めた。やだねぇ、この己の欲にまみれた人間ってのは。
こんな爺の笑顔見るよりシカマルの笑顔見てる方が何十億倍も良いね。
「ククッ…なかなか、礼儀がなっているようだな」
「お褒めに頂き」
めんどくさいめんどくさいめんどくさいめんどくさいエンドレス。
なんか加齢臭するんだけどこのオッサン。加齢臭っていうかおじいちゃんの家に遊びに言ったらするあの畳みと家具と加齢臭の混じったあの臭い。
にやにや笑うのは俺の広い心の許容範囲内でギリギリ許すが近付いてくるのは例えお天道様が許しても俺の鼻が許さねぇ!
「それで、ダンゾウ殿。先程のお言葉の真意、お聞かせ願いたい」
「おお、そうだったな」
俺の台詞に足を止めるダンゾウ。頼むからそれ以上近付いて来るなよ。間違って殺しちゃいそうだから。
てか俺早く帰りたいんだけど。シカマルとカカ兄ちゃんたちがご飯作って待ってるんだけど。
爺の相手なんかしたくねぇんだよこの野郎。
「白陽殿、貴殿に是非根へと来て頂きたい。報酬は今の、火影が出す以上に出そうぞ」
金なら有り余ってるっつーの。今更金なんか必要無いし。
俺は金の為に暗部で働いてる訳でも無い。
大切な人を守るために戦ってんだ。
「申し訳ございません。そのお誘い、非常に有り難いのですが私めは火影様直属の身…御身に使えるわけにはゆきませぬ」
くっそぉ、こんな奴相手に俺が敬語使わねぇといけねぇんだよ。じっちゃんの立場が悪くなるかもしれねぇから我慢だけどさ。
「そうか…惜しいのぉ、その麗しい見目だけでも、わしの手の内に収めたかったが」
………じっちゃん、ごめん。
俺、頑張ったよね。
今まで頑張ったよね。
悪いけど、もう無理です。
「気持ち悪いんだよ、ゲス野郎。俺にそう言うこと言って良いの、黒月だけだ」
瞬身で俺はその場からダンゾウの後ろに回って刀を首に押し当てて皮一枚を断ち切る。
反応、遅いんだよ爺。
冷や汗とか、マジで気持ち悪い。
「ダンゾウ殿ともあろうお方が、こうも易々と背後を取られるとは…些か鈍っておられるのでは?」
「ッ……ふっ…流石だ。わしでは敵わぬか」
「言っておきますが、もし俺の次に黒月に手を出そうものなら、首の皮ではすみませんよ」
今の内に言っておかないと絶対に次はシカマル狙う気がする。
つかシカマルをこんな爺の視界に入れられるのすら許さねぇ!
俺の心のオアシスに爺の加齢臭がつくのも許せねぇしな!!
「それではダンゾウ殿、御前失礼いたす」
「白陽殿、後悔するでないぞ。それと、今度の奉納演舞楽しみにしておこう」
「激励、感謝いたします」
どこでその事嗅ぎ付けた糞爺。
ま、良いけどね。どんな邪魔が入ろうと俺には通用しないし。つーかそろそろ俺の鼻が我慢の限界だから。あー、早く家帰りたい。
無駄な時間過ごしちゃったよ。
「今日のご飯なーにかっなー」
あー早くお家かーえろっと。





「たっだいまー」
「あ、お帰りナルトー。遅かったねぇ。どしたの」
「臭ぇ爺に足止め食らってたの」
家に帰ると黒いエプロンをつけたカカ兄ちゃんが大皿を持って歩いてるのが玄関の向こう側、開いた扉の隙間から見えた。
中身はエビチリと八宝菜。うん、今日は中華か。
「爺?あ、もしかしてダンゾウ様かな」
「当たり。なんで分かったの?」
靴を脱いでリビングに行けばテーブルの上には出来たばかりの春巻や焼売、天津飯が並んでいる。奥のキッチンで二つの尻尾頭が揺れているのが見えるので、今日はシカマルとイル兄ちゃんの共同作業らしい。
めっちゃ美味そうです。
「だって臭いもん。昔からね、加齢臭酷いって先生と言ってたんだよネ」
つまり父さんも嫌いだったんだ。
つか俺が生まれる前から酷かったのかよ。ぶふっ。
「ナルトお帰りなさい」
「あー、シカマルゥ〜」
カカ兄ちゃんとそんな話しをしていると大好きなシカマルがスープを持って現れた。
料理の邪魔だからって後ろ髪はそのまま、前髪だけを引っ詰めて括ってる。勿論キッチンに立つ為に変化したまま。
前髪が無いから切れ長の目が何時もより目立って整った顔がくっきりと浮かび上がる。カッコイイよシカマル。
俺の傷付いた心の目が物凄い勢いで修復されていってるよ。
「変な話ししてましたね。どうしたんですか?」
「んー、なんでもない。てかシカマルには聞かせたくない。無駄な存在の話しだから」
「そうですか。もうご飯食べれますから、着替えて来て下さい」
「分かった。……あ、そうだ、シカマル」
「はい?」
シカマルの台詞に俺は着替えに行こうとした…けど、ちょっと思い出したことがあったから動きを止めた。
くるりと方向転換して、シカマルの肩をがっちり掴む。
「シカマル、言葉の意味とか何も考えないで、俺の言う台詞を言ってくれる?」
「?えぇ、良いですけど」
「その麗しい見目だけでも俺の手中に収めたい。はい、リピートアフターミー」
「そのうるわしいみめだけでもおれのしゅちゅうにおさめたい。………ナルト?」
棒読みで俺の言った台詞を反芻するシカマル。
たった、たったそれだけなのに。なのにですよ!
やばいやばいやばいやばいやばい俺の中の乙女心が今物凄いことになってますやばいです顔赤くなんの止められないってか自分で言わせておいてすんげぇ破壊力なんだけど畜生カッコイイ!!
つかガチでンな台詞言われたら俺オちるわ。絶対確実に。
「ナルト…お前なにやってンの」
「煩いよカカ兄ちゃん。俺は今幸せ噛み締めてんの。邪魔すんな」
「はぁ」
呆れたようなカカ兄ちゃんの溜め息が聞こえるけど聞こえないふり。
シカマルからの台詞は俺の心のレコーダーにしっかりがっつり刻み込まれて永久保存版決定です。
「ナルト、どこか痛いんですか?」
「ううん。なんでも無いよシカマル。俺着替えてくるね!」
今日会った忌ま忌ましい爺との記憶はこの瞬間綺麗に俺の中から抹消された。
それがある意味、面倒臭い事態の一歩だったのを知ったのは…後の祭。


END
ナル君が乙女で暴走し過ぎ。ダンゾウ様好きな人、ごめんなさい